Story - Despir -

Despir - 2 -

閑散とした広い寝室。

ガチャ

誰かが扉を開ける音が大きく響いた。
ベッドで寝ていたシフィグは扉の方に顔を向ける。
自分の元へやって来たのは我が息子ガイアスだった。
「…母さま、大丈夫?」
「ガイアス…私は大丈夫よ、心配しないで」
そう言って彼女はゆっくりと身体を起こす。
時折激しく咳き込むのでガイアスは心配そうに母の背中をさすってあげた。
けれどシフィグは「これくらい平気よ」と彼に微笑んだ。
それから息子の心を悟ったかのように優しく声を掛ける。
「どうしたの?元気がないわね」
「…俺には父さまの考えがわからない。どうして父さまは母さまの身体を心一つ気遣ってあげない!?」
「ガイアス…大丈夫よ、貴方が気に病む必要はないわ」
「でも…!」
「いいのよ。でも、ごめんね…母親である私は貴方に何もしてあげられなくて」
慈悲深いシフィグの言葉にガイアスは瞳を丸くする。
どうしてなのだろう。
今一番誰よりも辛いのは母の方なのに。
自分のことを気遣う健気な彼女にガイアスは深く胸を突かれた。
混み騰がる感情を抑えながらどうにか言葉を返す。
「そんな…母さまは何も悪くないよ。…悪いのは何もしない父さまの方だ」
「…本当はあの人も悪くないのよ」
「考えられない…現にこうして母さまを苦しめているのは父さまなんだ、俺は絶対赦さない」
シフィグは返すべき言葉が思い付かず、ただ静かに瞳を伏せた。
「そろそろ眠くなってきたわ…ガイアス、貴方ももう休みなさい」
そう言ってシフィグはゆっくりと床に就く。
「うん…母さま、おやすみ」
母が眠るのを見てガイアスは自分の部屋に戻っていった。



―― ガイアス、貴方は何も知らなくて良いの…。
魔王は后を愛してはいない。
繋がりはあれど、それはすべて魔界が未来を歩むために必要だった事。
シフィグは真実を息子であるガイアスに話すことはなかった。
今までずっと、そしてこれからも、愛されない自分を知っていたからだ。
我が子には自分のような辛い想いをして欲しくはない。
もしすべてを知ってしまったとき、息子はどうなってしまうのだろう。
そんなことを考えるだけで耐えられない。
自分の身はどうなれど、どうか息子だけは幸せに。
それが后シフィグの切実な願いであった。