Story - Disaster -

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―― とうとうこの時が来たのね…。
黒いドレスに身を包む一人の女悪魔。
頭には二本の角。
黒く長い髪が風に靡く。
深い紫の瞳は輝いていた。
背中には黒い翼を携えて。
胸をときめかせながら彼女は魔王城へと赴く。
このときすでに彼女の運命は思わぬ方向へと傾いていた。



魔王エルガナスは相変わらずぼんやりと外を眺めていた。
心にある想いはただ一つ。
しかし、それはもう届かない想いなのか。
何度も同じ葛藤を抱えて彼は何も変わらない毎日を過ごす。
そこへやって来たのは自分に仕える家臣であった。

家臣は丁寧に敬礼をすると膝を付け、口を開いた。
「魔王様、お話がございます」
「…なんだ」
「大変失礼ながら…今の貴方様には魔王の名の威厳も感じられません」
「………」
それもそうだ、とエルガナスは心の中で思った。
別に自分は魔王になりたくてなったのではない。
もし他の者に譲れるものだというのなら喜んで譲りたいものだ。
しかし、魔王は代々魔王の血を受け継ぐ者がなるという掟がある。
自分に受け継がれたこの血はどうやっても変えられない。
「魔王様がこの調子ではいずれ魔界は堕落してしまいます」
「ならば…王権を遷せばいい。私はいつでも魔王など辞めてやろう」
「何度も申していますがそれは出来ません。魔王様の血を受け継いでいるのは貴方だけなのですから」
「………」
なぜ魔王の血を受け継いでしまったのだろうか。
自分にこの血さえなければ、誰にも邪魔されることなく彼女と一緒になれたのかもしれない。
そんなことを考えエルガナスは自分の中に確実に流れている血を呪った。
家臣は話を続ける。
「魔王様、我々家臣は長い話し合いの末一つの提案に辿り着きました。それは…」

家臣から紡がれた言葉はとても考えられないことだった。
顔色を変えたエルガナスはすぐに異議を唱え反論する。
「馬鹿な…そんなこと、誰が認めるものか」
「もうこれは決定したことです。いくら魔王様が反対しようと我々の答は変わりません」
「っ…!!」
エルガナスは反射的に立ち上がり、家臣に向かって掌を向けた。
そこには黒いエネルギーが集まる。
だが。
「魔王様…貴方はもう戦わないと仰っていました。まさかここで暴力行使するおつもりですか?」
「………」

返す言葉が見つからずエルガナスは向けた掌を降ろした。
家臣達の強制的な決定に反感を覚えて気を悪くする。
自分の意思を無視した提案に納得なんて出来るはずがない。
しかし、今の彼にはもう反論できる術は持ち合わせていなかった。
結局、ただ時が来るのを待つだけになる。
そうすることしか出来なかった。