Story - Disaster -

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魔王は何かを命令するわけもなく、ただ王座に居座っていた。
視線の先は窓の外。
そこからは魔界の景色が見渡せる。
真紅の瞳に宿るのは哀愁という感情だった。
彼の脳裏に幾度も過ぎるのは愛しき天使の姿。
そのせいで魔王は完全に意気消沈してしまっていた。
彼に魔界を統一しようとする気などないのは明か。
その姿に代々魔王に使える家臣達は不安を隠さずにはいられなかった。

「魔王様はいつまでああしておられるおつもりなのか…」
「何を言っても上の空、このままでは魔界が堕落してしまうぞ?」
「一刻も早く何らかの対処せねば…」
「だがどうやって?いっそ王権を他の者に遷した方が良いのではないか?」
「それは出来ない。そうすれば魔剣を扱える者がいなくなってしまう」
「ならどうする?魔王様の愛する天使でも連れてきて気力を出させるというでもいうのか?」
「そんなこと無理に決まっている!天使なんか連れてきたら魔界の面目が丸潰れだ!」
「ああ…イゼレーク様が生きてさえいればこんなことにはならなかった…」

毎日のように行われる新たな魔王エルガナスに対する審議会。
彼らは休むことなくこれからの魔界について深刻に話し合っていた。
だが、いくら話し合ってもなかなか良いアイディアは出てこない。
かつて強大な力を行使し、凶悪な存在として繁栄してきた魔界オルセイア。
このままでは本当に魔界が崩壊してしまうのではないか。
彼らの胸にある不安と焦りは、まさに頂点に達しようとしていた。
そんなときである。
家臣の一人がピンッと何かを思い付き、一つの提案を切り出す。

「要は魔王様の血を絶やさなければ良いんだ。それは………」
「ふむ…なるほど」
「そういう手があったか」
「………こうすれば我々にも都合が適っているのではないだろうか?」
「確かにこれならば魔界も崩壊することはないな」
「しかし今の魔王様が納得するとは思えないが…」
「それはもう仕方がない、ここは強引にでも事を運ばねば。魔界の命運が掛かっている…」
「よし、そうと決まれば明日から準備に取りかかろう」

家臣達は全員頷いた。
それから各自役割とその分担を取り決める。
こうして長きに渡った審議会は解散された。
彼らの魔界復興作戦が始まろうとしていた。