Story - Fated World -

08 再会

推測が確信となるとき。
彼女はただ、彼が来るのを待っていた。



防衛がすべて突破されてしまい、悪魔はすぐ傍まで侵攻してきていた。
「悪魔が来たぞ!大天使様を守るんだ!」
護衛の天使が次々とやって来た悪魔に立ち向かう。
しかし長き平和を過ごし戦い慣れしていない天使が敵うはずもない。
悪魔に振り下ろした槍はいとも簡単に避けられてしまった。
「うわぁ!」
怯える天使。
「少し寝ていてもらうよ」
悪魔は手際よく魔法を唱える。
気が付けば大勢いた護衛の天使全員が倒れていた。
無論、大天使を除いて。

颯爽と現れたのは6人の悪魔。
彼らは大天使の前で規律良く並ぶと丁寧に敬礼をする。
その見覚えのある姿に大天使は瞳を大きく丸くした。
「お久しぶりですね、大天使様。少々手荒な行為でしたがどうかお許しください」
「貴方達は…」
「ああ、お待ちください。一番貴方に逢いたがっていたのは我々ではありませんので」
そう言って大天使の言葉を遮ると6人の悪魔は中央の道を開けた。
ゆっくりと近づいてくる足音。
大天使の心音が無意識に高鳴った。
奥から悠然と現れたのは紅い髪の悪魔だ。
その手に持っているのは代々魔王が受け継ぐという魔剣。
しばらく交わす言葉はなく、ただ互いに視線を合わせていた。
そうしてようやく、悪魔が口を開く。
「…クライン、ずっと君に逢いたかった」
「貴方は…エルガナス?」
「ああ…」
「本当に、本当に…エルガナスなの…?私に…逢いに?」
「ああ。少し強引だったが…」
幼き頃の懐かしさを感じる大天使クライン。
けれどすぐにハッとする。
周りには抵抗も虚しく倒れ伏せる大勢の天使達。
自分に会うためだけに彼は多くの天使を薙ぎ倒してきたというのか。
思わず表情が強ばり、クラインは一歩退いてしまった。
「私に会うために貴方は天使達を…」
「大天使様、誤解なさらないでください」
言いかけたクラインに割り込んだのは6騎士だった。
「エルガナス様は誰一人天使の命を奪ってはいません。無論我々も。彼らは全員気絶しているだけです」
「え…?」
「私は戦わない。しかし私が来れば天使が黙っているわけがない、だからそうするしかなかった」
その言葉を聞いてクラインは倒れている天使達を確認する。
彼らの言うとおり、確かに全員息はあるようだ。
「…良かった」
動揺しかけていたクラインはホッと一安心する。
それから恐る恐るだがゆっくりとエルガナスの傍に寄った。

懐かしそうにエルガナスを見上げるクライン。
昔自分と同じ背くらいだった悪魔は今や身長も伸び体付きもたくましい。
魔王となったせいなのか、少しばかり威勢さえ感じる。
「エルガナス…しばらく逢わないうちに大きく変わったのね」
「君も…クラインも変わった、綺麗になった」
可愛らしかった天使はより一層美しさを兼ね備え、麗しき天使へとその姿を変えていた。
長い時間の差を感じながら二人は互いに見つめ合う。
雰囲気を悟ったのか、6騎士は静かにその場を後にした。
クラインは徐にエルガナスの顔にそっと触れる。
「触れる…今、本当に私達は同じ場所にいるのね」
「そうだ」
頬に当てられた手を取りエルガナスはクラインの体をぐいっと引き寄せ、抱きしめた。
「これからはずっと一緒にいよう…」
「ええ…ずっと、ずっとね…」