Story - Fated World -

06 来る時(きたるとき)

いつしか魔界に訪れた転機。
世界ヴァーツィアに進軍していた魔王イゼレークが一人の魔導士に倒されてしまう。
結果、魔界の掟により事実上イゼレークの息子であるエルガナスが王権を握ることになった。
魔王エルガナスの誕生である。
同時に悪魔のヴァーツィア侵攻はようやく終わりを告げた。
今、新しい風が吹き始めようとしていた。


 + + +


紅い髪の悪魔が禍々しいオーラを放つ剣に手を触れた。
それは魔界で代々魔王のみが扱えるという邪気を纏う魔剣。
しっかりと剣を握りしめると台座から勢いよく引き抜く。
剣は簡単に持ち上がり、瞬間大きな闇の力が全身に駆け巡るような衝動を感じた。
確かな手応えを覚え、マントを翻しその場を後にする。
紅い髪の悪魔は誰にも見つからないよう密かに一人魔王城を抜け出すのであった。

訪れたのはずっと昔に封じられた場所。
今でもその力は衰えず依然と光る壁を形成している。
壁を見上げながら、瞳を細め、懐かしそうに悪魔は呟いた。
「…クライン、いよいよ君に逢えるときが来た」
深呼吸をしてから持ち出した魔剣をゆっくり構える。
と、そのときだった。
「一人で天界に乗り込むつもりですか?」
背後から突然声を掛けられて彼は振り返る。
そこに立っていたのは見慣れた6人の悪魔だった。
「お前達…どうしてここに…?」
「何を言っているんです?我々を置いていくなんて酷いじゃないですか」
「欺こうとしても無駄ですよ、我々は誰よりも貴方のことを知っています」
「我らはどこまでも貴方に付いていくと言いましたよね?ならば当然でしょう」
『一緒にお供をしますよ、魔王エルガナス様』
そう言って魔王従者6騎士は得意気に胸を張った。
不意を付かれ驚いていたエルガナスだったがすぐに表情は軟らかくなる。
呆れた表情を浮かべながら、心の中では感謝していた。
「まったくお前達は…好きにするがいい」
「ではご一緒させていただきますよ。それで…天界に攻め込むのですか?」
「違う…私は争いなどしない。私は彼女に…クラインに逢いに行く、それだけだ」
エルガナスがそう言うと6騎士は「貴方はやはりエルガナス様ですね」と笑った。
それに気を悪くしたのかエルガナスは悪態つきながら言う。
「下らないと思うのなら帰るがいい。今ならまだ間に合う」
「まさか、ご冗談は止してください。しかし…天使の方は攻め込まれたと思うのでは?」
「わかっている、それは仕方のないことだ。だが絶対に危害は加えるな…」
「了解、お任せください」
「ならば行くぞ」
「はい!」
エルガナスは魔剣を大きく振り上げた。
すると闇の力が収束し一点に集められる。
魔剣を振り下ろしエルガナスは力のすべてを光る壁にぶつけた。
大きな爆音と強い衝撃が辺りに迸り、重い風が駆け抜ける。
黒い邪気は光を吸収し、壁を悉く破壊した。
結界は撃ち破られ、7つの黒い翼は駆けて行く。
壊された壁の向こうに見えるのは神聖なる世界、天界プラディーン。