Story - Fated World -

05 届かない

「エルガナス様…?」
ゆっくりと目を開けると耳に届いた聞き慣れた声。
ぼんやりと視界に映るのは見覚えのある部屋の天井。
そして自分の顔を覗き込んでいる6人の従者達。
「ここは…」
「気が付きましたか。ここは魔王城、エルガナス様の寝室です。どこか痛むところはありませんか?」
「…うん、大丈夫」
エルガナスはゆっくり起きあがり、くるりと辺りを見回す。
それから思い出すように声を挙げた。
「…クラインは?」
「それが…」
6人の従者は浮かない表情で重い言葉を紡いだ。

数十分後。
訪れたのはいつもクラインと落ち合っていた場所。
一面に立ち憚る光を見てエルガナスは愕然とするしかなかった。
「そんな…」
今や、そこにあるはずの歪みは完全に消えている。
前までは見えていた天界の景色もなく、ただ歴然と光る壁が遮っていたのだ。
それならば、とエルガナスは自分の持つ闇の力を壁へとぶつける。
しかし、その力は跳ね返されてしまい壁には傷一つ付けることが出来なかった。
「エルガナス様、我々の力では壁をうち破ることは出来ません…」
「くそっ…!どうして…」
「覚えていますか?我々の前に現れたあの天使、彼は天界の王…天王ラクラディアです」
「あいつが天王…?」
「ええ。まさか彼女の兄が天王だったとは…迂闊でした」
「おそらく彼がここを完全に封じたのでしょう。いくら我々が力をぶつけようと天王の力には敵いません」
「申し訳ございません…我々がもっと早く気付いていれば…」
「………」
言葉を失いエルガナスはその場で立ち尽くす。
どうしてこんなことになってしまったのか。
やはり悪魔と天使ではともに生きることは出来ないのか。
エルガナスの胸に答のない虚無の疑念だけが強く残った。