Story - Fated World -

04 別離

別れは突然やって来る。
エルガナスは歪み越しにクラインが口にした言葉を疑った。
「もう会えないって…どういうこと?」
クラインは俯いたまま涙を浮かべている。
「あのね…私、明日から大天使になるための修行をすることになったの。だからもう…この場所に来られない。
エルガナスに…会えなくなるの…」
「そんなの嫌だよ!」
「私も本当は嫌だよ…でも、決まりは変えられないの。ごめんねエルガナス…」
「嫌だ…もう君に会えなくなるなんて!僕は絶対に嫌だ!!」
突然訪れた別れにエルガナスは気が動転した。
せっかく毎日が楽しくなってきたのに、彼女に逢えなくなるなんて考えられない。
それだけが頭の中を駆け巡り、思わずクラインの元へ行こうと歪みに手を触れてしまった。

バチバチッ…!

触れた瞬間、彼の両手に白い火花が迸り、激しい摩擦が生じる。
「エルガナス様!!」
従者達は慌ててエルガナスを歪みから引き剥がす。
けれどエルガナスはまったく痛みを感じていないようだった。
声を挙げることもなくただ愕然と、歪みの向こう側で驚くクラインに視線を向ける。
歪みの摩擦で受けた痛みよりも、彼女に告げられた別れの方がずっと衝撃は大きかったのだ。
そうして聞こえてきた聞き慣れない声。

「なぜ会えなくなるのかだと?それは…クラインを悪魔に誘惑されないためにだ!」

その場にいた全員が上空へと顔を向けた。
白い翼がふわりと羽ばたき現れたのは長い金髪を靡かせた男の天使。
天使はエルガナスとその従者達をいかにも見下すように睨みながら、クラインの前に降り立つ。
「お兄さま…!」
「こんなところが魔界に通じていたとはな。やはり結界が弱まってきているか…」
歪みをまじまじと眺めながら一人呟くと、徐に掌をこちらに見せた。
向けられたそこに光が収縮し始める。
クラインは顔色を変えて、男の腕を引きながら声を挙げた。
「お兄さまやめて!エルガナスは悪い悪魔なんかじゃないのよ…!」
「馬鹿を言うなクライン。悪魔は皆醜い心を持っている…お前は少しばかり障気を浴びすぎたようだな」
言いながら男はちらりとクラインの顔を見ると彼女の手を強引に押し払う。
それから再び歪みの向こうにいるエルガナス達に目を遣った。
「…悪魔ごときに騙される我々ではないぞ?魔界の王子エルガナスよ」
「僕は騙そうとなんかしていない!」
「果たしてそうか?悪魔は言葉が巧みだというではないか、そんな野蛮な奴らを信用出来るはずもない!」
「…!」
急に目の前が真っ白になり「エルガナス様…!」という従者の声が辺りに響いた。
けれど聞こえるはずのその声はだんだんと遠ざかっていく。
たった一つの想いを胸に気力を失せたエルガナスは瞳を伏せる。
その直前、悲しみを帯びた少女の顔が見えたような気がした。



どうして?
僕がいったい何をしたっていうんだ?
わからない…わからないよ。
僕は彼女と一緒にいたい。
ただ…それだけ。
それだけなんだ…。