Story - Fated World -

02 光

「もうすぐですね、エルガナス様」
「うん…そうだね」
従者を引き連れてエルガナスは空間が歪む魔界の"端"にやって来た。
ここは魔界と天界の境界線。
一歩向こうへ足を踏み出せば天界プラディーンへ続くという。
だが、そう簡単には適わない。
闇と光の力が反発し合っているためくぐり抜けることは不可能なのだ。
エルガナスは歪みの前に屈んで、その向こうをじっと覗き見た。
見えるのは光が溢れる天界の景色。
思わず手を伸ばしそうになる。
気付いた従者は「王子!触れては駄目ですよ!!」と注意した。
それでもエルガナスがここから離ることはなかった。

「あ…」
歪みの向こうで何かを見つけたエルガナスが声を上げる。
ふと気付くと、そこには白い翼を広げた金髪の少女…天使がいた。
可愛らしいその天使は同じくこちらを覗いている。
「こんにちはエルガナス。今日も会えたね」
天使は微笑みながらこちらに手を振った。
「うん、クライン…会いたかった」
エルガナスもほんのり笑みを浮かべて彼女に応える。
二人は嬉しそうに互いの顔を見つめていた。



天使と悪魔。
お互い敵同士であるにも関わらず二人はよくこの場所で語り合っていた。
始まりはエルガナスがこの場所を見つけたときから。
ある日散歩をしていたエルガナスは向こう側に見える光に母を思い出した。
なんとなく懐かしくて毎日ここへやって来るようになっていたのだが。
そこへ天使の少女が現れたからエルガナスは驚いた。
少女もエルガナスを見て目を丸くする。
こんな場所で自分と相反する種族を間近で見たのは二人とも初めてだった。
天使の少女はおそるおそる向こうに見えるエルガナスに声を掛けてきた。

「あなたは…悪魔?」
「うん…君は、天使?」

それから二人の交流は始まった。
本来ならあってはならないことである。
なぜならエルガナスは悪魔でクラインは天使だから。
周りに知れ渡ってしまえば互いの種族の仲は更に悪くなってしまうだろう。
それにエルガナスは次期魔王後継者。
天使と仲良くするなんて許されるはずがない。
だから二人は誰にも見つからないようにこっそりここへとやって来る。

「ねぇエルガナス。私達、いつかは間近で会えるようになるのかな…」
クラインは夢みるように呟いた。
「僕は君に会いたい。今は無理でも…僕は君に会いに行くよ」
「本当に…?」
嬉しそうに瞳を輝かせるクライン。
それを真っ直ぐに受けてエルガナスは自分の胸が一瞬跳ねたのを感じる。
エルガナスにとって彼女は闇を照らす光のような存在で、何よりも愛しかった。
「約束するよ」
「私、エルガナスを待ってるからね」
「うん、絶対に会いに行くから…」