Story - Fated World -

01 異世界

天使と悪魔は敵同士。

―― 誰がそんなことを決めたんだ?

天使と悪魔は仲良くなんてなれない。

―― どうしてそう言い切れる?



僕にはわからない。
戦いたくない。
誰かが傷つくのは見たくないし、傷ついて欲しくない。
悲しみ、憎しみ、怒り…そんな感情はもうたくさんだ。


+ + + + +


隣同士の異世界。
天界プラディーンと魔界オルセイア。
二つの世界が互いに接することはほとんどない。
あるとすれば戦争を始めたときくらいか。



「父上、ちょっと出掛けてきます」
「何処へ行くのだ?エルガナス」
「外の空気を吸いに…」
「そうか、すぐに戻るのだぞ。お前は次期魔王後継者なのだからな」
「…わかっています」

魔界オルセイアを統治する魔王イゼレーク。
その息子であるエルガナスはよく外に出掛けるのが日課になっていた。
立場上、魔界の王子になるのでいつも従者を引き連れている。
「エルガナス様、今日もあの場所へ行くのですか?」
「…うん」
エルガナスは魔王の息子とは思えないほど穏やかで、もの静かな少年だった。
悪魔は本来、凶暴で強欲(これは一般的なイメージに過ぎないが)、力でものを言わせる実力主義である。
まさにエルガナスの父親イゼレークがそうであった。
今現在も、己の力を行使して人間が住む世界ヴァーツィアを征圧しようと進軍中である。
エルガナスが大人しい悪魔として育ったのは、優しい母親の影響が大きいともいえよう。
小さい頃からずっと母親の愛情を受けて成長を遂げたエルガナスは母が大好きであった。
しかし今はいない。
随分前に母親は病気で亡くなったのだ。
それ以来、言葉や感情を表に出すことは極端に減った。
唯一感情を見せる相手といえば、自分に付く6人の従者くらいである。