魔女と暗黒騎士

【1-6】任務初日を終えて ロアとアノア

 先陣部隊の任務初日を終えたロアは、特攻隊の宿舎へと帰宅した。自分が住む部屋の前に到着すると、扉をノックしながら中で待っている友人に声をかける。

「アノア、戻ったよ?」
「お帰り、ロアちゃん!」

 扉が開くと部屋の中で出迎えたのは特攻隊同期のアノアだった。
 オールドローズ色のウェーブがかかった長い髪に草色の瞳を持つ彼女はロアよりひとつ年下だったが、人懐っこい性格でロアとは気が合う親友でもあり、同じ部屋で生活する同居人でもあった。
 本来、今日より先陣部隊へ異動したロアは別の専用宿舎へ移動できるはずだったが、仲の良いアノアとは離れ難い気持ちがあり、宿舎管理者の許可を得てしばらくは今まで通り過ごせることとなっていた。
 部屋の中央には木製のローテーブルがあり、互いに向き合うように座るとアノアは早速聞いてきた。

「先陣部隊はどうだった?」
「緊張したけれど、部隊の人は皆明るくて良い人だったよ。セディト士官も優しかった」
「そうなんだ?セディト士官って、かっこいいけど少し怖そうなイメージもあるよね」
「うん、でも話したら全然…普通だったよ。私にいろいろ気を遣ってくれていたし」
「へぇー! あ、イェルガ様はいた?」
「いたよ。アノアが見せてくれた王国誌に載っていた写真と同じ人」
「いいなぁー!ロアちゃんが羨ましいよ」
「ごめんねアノア、私だけ異動してしまって…」
「あ、違うよ! 謝らないで。凄いのはロアちゃんの方なんだから。入隊してすぐに先陣部隊だなんて、本当に特別なことだよ。私ももっと療術を磨かないとね」
「アノア…ありがとう」
「ふふ、気にしないで」
「そういえば、アノアはどうだったの?今日は軍医の先生が来る日だったよね」
「うん、療術講習日だった。みつき先生の授業は新しい事が学べるから楽しいよ。ロアちゃんにも今度教えてあげるね」
「ほんと?あ、でも私は回復系は苦手だよ…」
「苦手なことでも、知識はあって損はしないから」
「そっか、そうだね」
「ロアちゃんも今度いろいろ教えてね!」
「うん、いいよ」

 ロアとアノアは1日の任務が終わると、互いの経験を語り合うのが日課になっていた。同じ特攻隊であっても、属する部隊が異なるために担当する任務も違う。ロアは魔導士として部隊の攻撃支援に従事し、アノアは医療魔導士として回復支援に従事している。
 ロアに至っては今日より先陣部隊へ異動したため、過酷な任務が今後待ち構えていることになるだろう。
 だからこそ宿舎に帰ると親しい友人がいてくれることがとても励みになった。もしも、異動と同時に生活環境も変わっていたなら不安で落ち着かなかったはずだ。
 互いの任務報告が終わった二人は軍の食堂へと足を運び、共に夕食を摂った。それが終わると再び宿舎へ戻り、入浴や身支度を済ませる。明日も早いため二人は早々と就寝についていた。

 いつもと変わらない日常。

 けれどもロアにとっては、今日から新しい配属先である先陣部隊の始まりだ。
 ベッドに潜り込んだロアは先陣部隊の1日を思い返していた。印象に残ることはたくさんあった。先陣部隊メンバーとの顔合わせ、部隊が担う任務、戦闘における隊員たちの役割、そして連携、それから……。

── 今日はずっとセディト士官の側だった。緊張したな…。

 ロアはセディトを間近で拝見して噂通りの士官であると感じていた。彼は上官として責務を全うしており、部下に対して一人一人を見ていることが伺えた。的確な指示、隊員への評価、少しだけ垣間見た彼の力、そして新人である自分への配慮。
 その中でもロアは、セディトの優しさに触れてずっと胸がざわついていたことを思い出す。この気持ちは何だろうかと考えて、すぐに答えは見つかった。有名な士官魔剣士があまりにも近くにいたものだから、気分が高揚しているだけなのだろう。きっとそうだ。

── 明日からは実戦参加だ。頑張ろう。

 ロアは重くなった瞼を閉じて、眠りに就いた。

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