Other Side Story 兄と親友
見えない光5
昼下がりの街の中、フードとマスクで顔を隠した男達が大通りにある飲食店のテラス席で密かに話し込んでいた。
彼らの視線の先には、黒髪の騎士の後に続く少年の姿。
「蒼い髪、瞳も同じ色……アイツだ、間違いない」
「あれが“蒼炎の狼”?リーダーの切り札だったっていう。まだ子供じゃないか」
「甘く見るな、アイツはエラハドさんに指南されていて、殺しもやり遂げている。油断は禁物だぞ」
「でも囮で捕まったんだろ?あの騎士は治安部隊だ。わざわざ捕縛されたガキを始末する理由は?」
「あのガキは前からムカつく存在だった。それになぜまだ生きているのか疑問だ」
「どういうことだ?」
「組織の者が捕まったなら自ら事を切るはず……今までそうだった。だから始末しないといずれ組織の情報を漏らすかもしれない」
「なるほど……でも、本当にいいのか?上から指示されたわけじゃないのに」
「構わない。組織の危険因子は早めに排除する方が大事だ」
「それもそうか」
「だが忘れるな。もしもの時は…」
「心配するな、皆わかっている」
男達は互いに頷くと、再び街の中へ散って行った。
*
少年は内心うんざりしていた。その理由は目の前にいる黒髪の青年にあった。
どうしてなのか、彼は毎日毎日…自分の元へとやって来る。少年は無視を決めていて、何を聞かれようと応える気は一切ない。
しかし、そこには清々しい笑顔があり、彼の楽しそうな表情を見ると心底腹が立った。
彼 ── アルゼフィートは少年の苛立ちには一時も構わず、檻を開錠すると手慣れたように少年の鎖を外した。相変わらず逃亡防止の枷輪は付けられたままだった。
国は、少年を捕らえる理由が薄れたとのことだが、少年は未だ牢屋に入れられていた。
アルゼフィートは申し訳なさそうに言う。
「ごめんな、早くここから移動させたいところなんだけど、外出許可と違って手続きが複雑でね……もう数日我慢してもらうよ」
少年を檻から連れ出した彼は歩きながら話を続けた。
「今日は俺の知り合いのところに行くからね」
それを聞いた少年は、さらに不機嫌になった。
取り調べが不要となってから、アルゼフィートは少年を国内のあちこちへ連れ回していた。
はじめはレストラン、翌日は書店、次は菓子店、興味の向かない雑貨店や服飾店、時には早朝に連れ出されて市場へ行ったこともある。まるでエンデバーグの観光案内だ。いったい何のために…?
そんなある時、少年は大通りに構える武器装具屋を見つけて足を止めたことがあった。そういえば自分が使っていた剣と短刀は取り上げられていて、今手持ちの武器はない。
武器装具屋の前で立ち止まる少年を見て、アルゼフィートははっきりと言った。
「武器はダメだよ。刃向かうことがあっては困るから…枷輪の条件にもなっているしね」
当然のことだった。少年に武器を与えたとなれば、反撃必須になるだろう。組織情報は暗示で得られないとしても、少年が持っている戦闘技能は危険視されていた。
それに「枷輪の条件」と聞いた少年は、彼の抜かりの無さにひれ伏すしかなかった。武器を手にした瞬間、痛烈な電撃を喰らうことになるのだろう。
ある意味、この男が付けた枷輪の方が自分にとって拷問ではないのだろうか。
魔力無しに魔法ダメージ。下手をしたら生死に関わることは世界の誰もが知っている。それを逃亡防止のため、平然と躊躇いなく仕掛けた青年に、疑念を抱くほかない。
いつものように少年がアルゼフィートに付いていくと、彼は城を出てから大通りをしばらく進み、やがて路地の方へ進行を変える。賑やかだった人通りが一気に減るのがわかった。
少し狭い路地通りには露店が並んでいる。大通りの店にはない珍しい掘出し物が売られている場合があるのだと、アルゼフィートは説明した。
路地を進むとやがて一軒の店に辿り着いた。店先の看板には「喫茶 盗めない鍵」と表記されていて、古びた外観は昔ながらの雰囲気が漂っている。
アルゼフィートがその喫茶店に入ったので、少年も仕方なく後へ続いた。
「やぁマスター」
「アルゼ、久しいな。前来たのはいつだったか、仕事が忙しいのか?」
「それなりにね」
「そうか。その小さな連れは、訳ありか?」
白髪頭に口髭を蓄えた初老の男・喫茶店のマスターはアルゼフィートの後ろにいる不機嫌そうな少年を見る。「この子の視野を広げようと思っているところなんだ」とマスターに伝えた彼は、少年にも紹介した。
「ここは俺の行きつけの喫茶店なんだ。マスターは城の元騎士長で、すごい人なんだよ?」
「おいアルゼ、少年の顔をよく見ろ。全く興味なさそうだぞ」
「知ってるよ。でもいいんだ、これで進展するかもしれないし」
「なんだ、本当に訳ありなのか…?」
「ちょっとね、大変なんだよ。あ、先に注文をお願いできるかな」
「勿論だ」
アルゼフィートとマスターは久々の会合だったためか、カウンター席で何やら二人で話し込んでいた。時々笑い声が聞こえたかと思えば、今度は真面目な顔で話を続けている。
自分のことを話しているのかもしれないが、少年は彼らの話には興味がなく、ひとりだけ少し離れたテーブル席でマスターが出してくれた喫茶店のフルーツケーキを黙々と食べていた。
菓子のような嗜好品に今まで興味が無かった少年だが、最近は行く先々で甘い物を食べているような気がしていた。アルゼフィートが勝手に注文したり買ってきては「美味しいから食べてごらん」と勧めてくるからだ。
初めて連れ出されたレストランで食後にケーキが出てきたことを思い出す。名前は確か、オレンジガトーショコラ。レストランの近くにある老舗菓子店のケーキだと、アルゼフィートは言っていた。
── これもおいしいけど、あのケーキが一番おいしかったかな。
甘い物は、嫌いじゃない。
結局のところ、アルゼフィートに食べ物で懐柔されているのかもしれないと、少年は後になって思うのだった。
「じゃあ、二階のことお願いするよ」
「ああ、準備しておく」
少年がケーキを食べ終わって水を飲んでいると、ちょうど二人の会話も終わったようだった。
「待たせたね。ケーキは美味しかったかい?」
完食したお皿を見ながらアルゼフィートは少年の顔を覗き込む。答えを知ってて聞いていると勘付いた少年は、蒼い瞳をふいっと逸らした。二人の様子を見ていたマスターは小さく笑いながら声を掛ける。
「アルゼ、頑張れよ」
「ああ、ありがとうマスター。また来るから。じゃあ行くよ」
そう言うとアルゼフィートは少年を連れて喫茶店を出て行った。
後にこの店は、少年にとって重要な場所となる。思い返せばこの時、アルゼフィートがすべての話を付けていたのだろう。少年は近く知ることになる。
以降もアルゼフィートは仕事の合間に少年を街の中へ連れ出した。行く先々は毎回異なる場所ではあったけれど、少年は日々ストレスが溜まっていく。
どうして自分に構うのか。犯罪者として捕まえたなら、ずっと牢屋に入れておけばいい。疑いがないのなら、今すぐ解放して欲しい。
どうして。なぜ。疑問だけが重ねられていく。
何も応えなければ、そのうち諦めるだろうと思っていたけれど、そうはならなかった。
アルゼフィートが何を考えているのか、少年には全くわからない。
だから、つい耐え兼ねて、ある日少年は言葉を呟いてしまった。子供なりに積もり積もった感情が抑えきれなくなっていたのだ。
「しつこい…」
その零れた一言に、アルゼフィートは一瞬だけ紫色の瞳を丸くした。今まで無言を突き通してきた少年が口を利いたのだから、驚いたのだろう。
でも、すぐにいつもの笑顔を浮かべると、少しだけ嬉しそうに言った。
「やっと話してくれたね?」
「………」
「あれ?またダンマリ…?」
「…お前、うるさい」
「お前じゃないよ、アルゼフィートだ」
「なんなの?毎日毎日、外へ連れ出して…」
「それは君に知ってほしいからだよ。あと俺が、君のことを知りたいからかな」
「もう…放っておいてよ」
「そういうわけにはいかないよ。君は子供だ。解放されたら、どこへ行くの?また組織へ戻るのかい?」
「………」
少年は言葉を詰まらせる。自分が組織に戻ることはない。戻れない。戻れば危険を晒す事になるのだから。国に捕まった時点で、少年の行く宛はなかった。
「今更戻れないだろ、俺が君を追跡することになるからね」
考えていることを言い当てられてしまい、少年は蒼い瞳を細めてアルゼフィートを睨んだ。本当に彼は、自分の先を読むのが上手かった。
アルゼフィートは笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「俺なりに考えてみたんだ。君の行き先をね。どうかな?今後を俺に委ねてみないかい?食事はあるし、一通りの生活は保証できる。悪くないと思うよ」
「………」
「まぁ、すぐには決められないと思うけど。どちらにせよ、俺はこれからも君と接することに変わりないし、やめるつもりもない。君はまだ、国の監視対象だからね」
その言葉から、少年はようやくアルゼフィートの目的を理解した。彼は監視の下で、自分を懐柔させようとしている。
確かに言われた通り、もし解放されたとしても少年の行く場所はなかった。昔みたいに、ひとり街の中を彷徨うことになるのだろう。
かといって、彼の提案を受け入れることも簡単にはできなかった。それは、組織の情報を得るための口実かもしれないから…。
暗示の影響なのか、少年の頭には未だ組織を守らないといけないという、絶対的な信仰心が刷り込まれており、それを自身の意志で覆すことは難しかった。
言葉を交わしたことをきっかけに、少年はアルゼフィートと会話をするようになった。自ら話すことは少なく、聞かれたことに答える程度が大半だったが、それでも会話が成立することで、アルゼフィートは少年との関係に大きな前進があったと感じていた。
そんな彼らに不穏な気配が忍び寄っていたのは、とある夕刻のことだった。
気が付いたのはアルゼフィートだった。何やら最近、城の外へ出るたびに自分達が付けられている気配を僅かに感じていたのだ。
いったい何者なのか。相手を洗い出すため、彼は少年を引き連れたまま人気の少ない場所へ向かうことにした。
「どこに行くの?」
城に戻ると言っていたアルゼフィートが城とは反対方向へ歩き出したので、少年は眉を顰めて疑問を投げかけた。アルゼフィートはなんでもないように応える。
「少し用事を思い出したんだ。ごめんね、すぐに終わると思う」
彼の後を追っていくと、やがて少し街から離れた場所へと出た。疎な街並みに人通りはほとんど無い。
アルゼフィートは通りの中央で立ち止まり、周囲を伺っていた。
「…どうしたの?」
少年が尋ねた時、彼は突然剣を抜いて構え始めた。治安警備隊が所持する長剣だ。穏やかだったアルゼフィートの表情は鋭く冴えており、周囲を威圧しながらも少年に言った。
「俺から離れるな。狙われている」
「え…?」
その時、少年もすぐにその気配を悟った。静かな殺気が自分へ向けられている。
相手を探ろうと殺気の出所へ視線を向けた時、突然目の前に影が現れた。
キィィィンッ!
気付けば少年を庇うようにアルゼフィートが立っている。彼と剣を交えているのはマスクで顔を隠した者だった。
「ちっ!」
相手は舌打ちしながら一度身を離すと、再度研ぎすんだ刃を振りかざして襲いかかって来る。
アルゼフィートは相手の刃を受けて弾き返し、隙なく反撃を加えていた。
少年も無意識に身構えるが、自分には武器が無い。あっても左腕の枷輪が邪魔をするだろう。武器が使えたなら返り討ちにするのに。
彼らの相打ちを見ることしかできずにいると、突然背後から別の気配を感じて少年はすぐに屈み込んだ。
すると、空振った刃物が通り過ぎるのがわかった。振り返った少年は相手の攻撃を即座に見切ってやり過ごす。アルゼフィートが相手にしている者とは別の刺客だ。少年を付け狙うこの相手もまた顔を隠しており、なんとなく攻撃方法に見覚えがあった。
── まさか…。
ひとつの可能性に気付いた少年は、表情を強張らせた。
襲いかかってくる刃を避けようと後ろへ下がると、何かに当たり、太い腕が少年の首に巻き付いた。
さらに別の仲間が待ち構えていたらしい。
少年の身体が宙に浮き、視界の端にキラリと光る刃が見える。少年は咄嗟に両足を振り上げて、自分を締め上げている男の身体を思い切り蹴ると同時に、腕へと噛み付いた。
「ぐあっ…!?」
思わぬ反撃に相手は少年を手放すが、もうひとりの相手が次なる攻撃を仕掛けてきた。
少年が別の相手に狙われていることを知ったアルゼフィートは、自分が対峙する相手に連撃を叩き込んで平伏せさせると、すぐに少年の側へと戻る。相手の攻撃を弾きながら少年を庇い、彼は男達に訊ねた。
「お前達はレンヴィットか?この子を狙うということは、そういうことだろう?」
「………」
相手は何も応えない。少年はアルゼフィートの言葉に確信する。やはり、組織の人間だ。おそらく自分を危険因子として処分しに来たのだろう。捕まった時から、こうなることは予想できたことだった。
── 組織を守らないと。
そう思っていた。けれども少年は不思議に感じていた。なぜ自分は、相手の攻撃を避けたのだろうか。そのまま素直に受けていれば、自分が危険因子ではなくなるはずなのに。どうして…?
アルゼフィートは組織の刺客相手に剣を交わした。三人を相手にしながらも彼の巧みな剣術は華麗な仕草で打ち合っており、引くことを知らない。やがて相手の隙を見逃さずに一方の武器を弾き飛ばすと、彼らの形勢は変わった。
武器を失った相手にアルゼフィートは剣先を差し向けて、残る二人に交渉を仕掛ける。
「さて、どうする?君達の悪巧みをすべて話してくれるなら、解放するけれど」
「はっ、馬鹿か?貴様に話すことなど無い」
「そいつをよく見ろ……残念だったな!」
剣を向けられていた男は「捕まるくらいなら」と呟きながら、どこからかナイフを取り出した。その刃は男自身の首筋に当てられて…。
「!?おい、やめろっ!」
「があぁっ…!!」
目の前で男は自害してしまう。それを見ていた仲間は捨て台詞を吐きながら後退する。
「それが答えだ……簡単に捕まえられると思うなよ」
そう言って男達はその場を去って行った。
彼らを追跡したいアルゼフィートだったが、少年と血溜まりの現場を放っておくことはできなかったので、剣を鞘に納めて少年に声を掛けた。
「怪我はしてないかい?」
「別に、大丈夫…」
「そう、なら良かった。君を巻き込んで悪かったね」
「………」
「城に戻るよ。俺はここの後片付けをしないといけないから」
少年が無事であることを確認したアルゼフィートは一先ず自害した男のナイフを拾い、念のため何か手掛かりを持ち合わせていないか服の中を探る。しかし予想通り、何も出てこなかった。
その様子を見ていた少年は呟いていた。
「なんで…?」
「え…?」
少年の声を聞いたアルゼフィートは顔を上げた。困惑したような蒼い瞳が自分へ向けられていたので、どうしたのだろうと少年の前へ行く。
目線を合わせるように屈むと、少年の顔を覗き込んだ。
「本当に、大丈夫かい?」
「なんで…どうして?」
「?…何のこと?」
アルゼフィートは首を傾げた。少年が口にする疑問がわからなかったからだ。
すると少年は珍しく、蒼い瞳を逸らすことなく紫の瞳へ真っ直ぐ重ねたまま言った。
「どうして、庇ったの?どうして、助けるの?そんなことしたって、俺は何も話さないのに…」
「それは、俺は治安警備隊として人の命を守ることが仕事だからね」
「お前の仕事は関係ない……なんで、俺に関わろうとするの」
「君の力になりたいからだよ。俺はそう思っている。だから君は、何も心配しなくていいんだよ?」
アルゼフィートは少年が少しだけ本心を打ち明けたのだと知り、優しい表情で少年の頭を軽く撫でてやった。
蒼い髪をくしゃくしゃにされた少年は黙ったまま何も言わない。
「さぁ、帰ろうか」
アルゼフィートがそう言って立ち上がると、少年は大人しく頷いていた。
*
スラム奥地。無法地帯に点在する崩れ掛けた建物。その中の一つに、血塗られた剣≪レンヴィット≫のアジトは密かに存在していた。
クリスは自室で飼い猫と過ごしていた。任務のための工作を一通り終えて、休憩しているところだ。
彼女はふと、昔を思い出していた。
それは数年前にジークが少年を連れ帰ってきた時のことだった。
「おかえりなさい、ジーク。随分時間がかかったのね……あら、この子はどうしたの?」
「拾いもんだ。俺達と同じさ、使えそうだから連れてきた」
「へぇ…蒼い髪に蒼い瞳、綺麗な色。それになかなか可愛い顔をしているわね」
「…ここがジークのお家なの?」
「そうだ」
「どこ見てもぼろぼろじゃん……もっといいお家だと思っていたのに」
「はあ?小僧テメェ、減らない口だな!まぁいい、それも今日までだ。クリス、後で暗示を掛けておけ。邪魔になる」
「いいけど…」
「あんじって、なに?」
「おまじないのことよ」
「おまじない?」
「貴方がここで暮らすための、大切なおまじない。あとで教えてあげるわ」
「ふーん?わかった」
小さかった少年はここ数年で成長し、背が伸びた。まだ子供の背丈ではあるけれど、いつかは自分を追い越してしまうのだろう。自分のせいで口数は減ってしまったが、それでも時々飼い猫と遊ぶ姿を見かけては、子供らしい仕草に心が癒されるものがあった。
クリスは組織の中では唯一の術使いであり、暗示を得意としていた。彼女の暗示は、掛けた相手に指示する内容を思い込ませる、あるいは特定の条件が満たされた場合に実行させるものだった。そのほとんどはリーダー・ジークの指示によるものだ。
彼女はベッドに座りながら自分の膝の上でごろごろする飼い猫を撫で、ひとり話しかけていた。
「ねぇリエラ、聞いてくれる?私の抱える秘密を……今のところ、話せるのは貴方しかいなくてね」
「にゃあー」
「うふふ、ありがとう。最近は寂しいでしょう?あの子がいれば、遊んでくれるのにね」
「にゃーん」
「仕方ないのよ…きっとあの子はもう戻らない。私も貴方と同じよ、少しだけ寂しいわ」
「にゃあー?」
「ああそうね、秘密の話をするんだった。私はメンバーに暗示を掛けているの……ジークの指示でね。もし捕まるようなことがあれば情報を口外しないこと、条件によっては強制的に自害するようにと。ここを守るため、大事なことよ。でもね、一人だけ例外がいるの……そう、貴方もお気に入りの蒼炎。あの子だけは、どうしてかしらね……まだ子供だからかな?自害の暗示を弱めてしまったの」
「にゃあー」
「リエラ慰めてくれるの?優しいわね。でもジークは気づいていたわ。私に何も言わないけれど……彼、見た目は厳しいけれど、優しいところがあるのよ。だから好きなんだけどね」
「にゃあーん」
「あら、心配するなって?……私も蒼炎のことが気に入っていたみたい。こんなことを話しても今更だけれど。話を聞いてくれてありがとうね、リエラ」
自分にすり寄ってくるリエラを撫でながら、クリスは自身が抱える心の枷を解く。ほんの数年のことなのに、いつの間にか蒼炎は組織の一員として存在していた。それは無意識のうちに自分の心にも浸透していることを知り、彼女は複雑な気持ちを抱いていた。
失ったものの大切さを知るとは、この気持ちのことなのだろうか…と。
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