煌めく星

「まーったく、アンタも物好きだな。また新生神をいじめてただろ~?」
 空間を漂っていると、笑みを浮かべた青年が声を掛けてきた。頭には黄色のバンダナを巻いている。そこから落ちる赤みを帯びた茶髪は、ところどころ金のメッシュが混ざっていて肩まで長い。服装はどこかだらしないのだが、彼は正真正銘の創造神である。
「別に。俺は自分のしたいことをしているまでだ」
「フフ、本当のことを言ったらどうだ? 破壊神ロストノヴィーは創」
「それ以上言ったらお前もろとも星を壊すぞ?」
「おおっと!  それだけはご勘弁を~」
 謝っている割には楽しそうな口ぶりの創造神に、破壊神ロストノヴィーは小さな溜め息を付いた。

 本来、創造神と破壊神が馴れ合うことは無い。創造神は星に命を与える者。破壊神は星の命を奪う者。各々が抱く役目故に、互いが交流を持つことは難しいのだ。
 それでも時折、彼らは相手を認めることがある。滅多に成り立つことではないのだが、それは無の領域という空間の中で紡ぐ、己と神名の誇りを掲げた一つの可能性……。
 そういう関係をロストノヴィーはいくつか持っていた。今目の前でだらけている創造神は、数少ない認めた内の一人だった。

 創造神 ―― 彼の名はピュトリスティウ ―― の傍らには一層と光輝く星があった。その力強い煌めきに興味を惹かれつつも、ロストノヴィーは言ってやった。
「…お前らは無駄に星を創り過ぎだ」
「そのために破壊神がいるんじゃないか」
「当てにしてもらっちゃ困るね。なぜ俺がお前らのごみを掃除しなきゃならんのだ」
「そうかねー? アランシーベルンの奴は喜んで死星を集めているそうじゃないか。ロスト、アンタもそれくらい熱心になってみてはどうなんだ?」
「馬鹿馬鹿しいな、死星なんて使い古しの塵でしかない。あんなものを好むベルの気がしれないぜ。それを選ぶくらいならお前の星を頂きたいね」
 ロストノヴィーはニヤリと笑みを浮かべる。けれど、創造神ピュトリスティウも同じような表情を返すだけだった。
「悪い冗談だな。アンタが手にしたいのは俺様の星じゃないし」
「………」
 ピュトリスティウの向日葵色の瞳が「どうよ?」と言うように見つめてくるので、ロストノヴィーは思わず眼を逸らしてしまう。どうしてなのか、話した覚えのないことをこの創造神は見通しているのだ。それでいて彼の言うことは的を得ているものだから余計に腹が立った。こんなへらへらした神の手中に囚われて、自分が躍らされていると思うと……癇に障る。

 先に広がる果ての無い星海を眺めたロストノヴィーは、振り返らずに言葉を投げ捨てた。
「…あいつの星は、特別だ」



   *



 彼に出逢ったのは、いつのことだっただろうか…。

 ある時、星の破壊に勤しんでいたロストノヴィーは、今まで出逢ったことの無い光の煌めきを見つけた。
 果てしない漆黒の中でたった一つ、毅然と輝く白い星。核となる球体の周りには、うっすらと光のオーラが虹を纏うように星を包み込んでいる。星の輝きは白く、そして青くもあり、緑や赤にも見え、その時々で色を映ろう星はロストノヴィーの眼をしばし楽しませた。

 一言で言えば“魅せられた”。
 それがこの星を眼の前にした、破壊神ロストノヴィーに最もしっくりとくる表現だった。

 ―― これは、新星か…?
 辺りには創造神と思しき姿がなかったので、首を傾げながらもロストノヴィーは星に歩み寄る。近くに寄れば寄るほど光は強く大きくなり、圧倒される迫力を肌で感じた。
 ―― この光といい力といい、こいつは凄い…!!
 興味に駆られたロストノヴィーは思わず星に手を伸ばす。すると光のオーラが僅かに反応し、彼の手を軽く弾いた。痛みは無い。が、自分を拒絶したことは間違いない。
「っ……創造神の星なのか?」
 弾かれた片手を余所に悪態を付いたロストノヴィーは輝き続ける星を睨む。オーラの帯は色彩を変えながら球体を護るように流れていた。
 この星を手中に納めたなら、いったいどれほどの力で満たされるのだろう? 未知なる想像は期待と比例して膨らんでいく。もしも壊すことができれば……考えを促すようにロストノヴィーの両腕は自然と双剣を構えていた。
 と、その時、帯の一部が開かれる。先ほど手を出したことがきっかけになったのか、規則正しい流れが徐々に変化し始めていた。いったい何事だ? とロストノヴィーが見ていると、帯の間から虹色の光の塊が現れる。その塊は星の真上へ飛び出ると、瞬く間に真の姿を現した。
 ロストノヴィーの目の前には、先にはいなかったはずの少年がいる。不思議な衣を纏う少年は、ロストノヴィーをじっと見つめていた。
 ―― 創造神…? いや、違うな……こいつは力の塊だ。
 少年の頭には緑色の帽子があり、そこから茶色の髪が流れ落ちていた。開かれた眼は橙色で、警戒するようにロストノヴィーを捉えている。胸の辺りで交差する2本の帯は少年を護るように揺らめいていた。
 その帯の先端が、僅かに動く。前触れなき兆しは外部の者に対する洗礼の攻撃だった。ロストノヴィーは咄嗟に双剣を前へ突き出し、自分を付け狙う帯を寸前のところで弾き返した。
 自分の力量を図ったのだろうか? ロストノヴィーの素早い反応を見込んだ少年は、ようやく閉ざしていた口を開き始める。

『破壊神……我らが創造神ユイティラーゼ様の星を狙うとは愚かしい』
 見た目や声は少年なのに、言葉遣いがやけに堅苦しい。ロストノヴィーは慎重になりながらも言葉を返した。
「やっぱりこれは、創造神の星なのか…」
『ふふ、この煌めきに見惚れたことは賞賛しよう。そうなって当然の星なのだからな』
 随分と星に自信があるようだ。が、ロストノヴィーもそれは認めざるを得なかった。ここまで強い煌めきを放つ星は、空間を彷徨っていても滅多に…いや、出逢ったことはなかったのだ。だからこそ、自ずと興味が湧く。
「ユイティラーゼ……この星を創った創造神の名前か?」
『その通り、麗しき我らの創造神様である』
「だったらお前は、何者だ?」
『我らの存在は ――』



「星の守護者だよ」



「!!?」
 紡がれた言葉は背後から掛けられた。問いに応えたのは目の前の少年ではない。一瞬たりとも気配を感じていなかったロストノヴィーはハッとなって振り返る。
 その先を視界に捉えた時、すぐに言葉が出てこなかった。

 闇の空間に立っていたのは、白い衣服と紫色の羽衣を纏う創造神だ。限りなく白に近い白緑色の髪は長く、前髪は横に流れていた。肌は白く、顔立ちは人で言えば男とも女とも判別しにくい端正なもので、未知なる意思を秘めた深緑色の瞳はロストの黒い瞳を捉えて離さなかった。
 創造神の姿は、己が見惚れるほどに美しかった。星にも負けない輝きを持っていて、狂いの無い華やかさが空気に現れているようだ。こんなことを思うのは自分らしくない……しかしロストノヴィーは、相手の存在感を否定できなかった。
 創造神はゆるりと歩み寄りながら穏やかな笑みを浮かべる。まるで女神を彷彿させる微笑みに、僅かながらもロストノヴィーはたじろいでしまう。
「彼は、私の星を護る者の一人 ―― オリジン・フォース」
「星の守護者だと…?」
「そう、星の守護者。ところで君は誰だい、破壊神?」
「創造神に語る名など ――」
「君はオリジンから私の名を聞いている。それでも明かさない、と…?」
「ちっ……ロストノヴィー、だ」
「ふふ、ありがとう。なるほど、噂に聞くゴッドブレイカーとは君のことか」
「ふん……そんな悠長にしていていいのかよ?」
 初めて出逢った創造神に一度は圧倒されたロストノヴィーだったが、気を取り直して双剣を向ける。ぎらりと光る銀刃の前で、創造神 ―― ユイティラーゼは、先と変わらない様子のまま立っているだけだった。怯えや逃げの姿勢はどこにもない……件の創造神であれば、自分の星を護るためにすぐにでも防衛策を図るというのに。それどころか…。
「その剣で、私の星を壊してみるかい?」
「何だって…?」
 思いもしない言葉にロストノヴィーは眉を顰める。ユイティラーゼは言葉を続けた。
「君が望むのなら、壊してもいい」
「………」

 ―― こいつは何を言っているんだ?
 ロストノヴィーはそう思った。己が築き上げてきた星を自ら破壊神に差し出すなんて。
 だが、そういう創造神が今までいなかったわけではない。例えば、所有する星に愛想が尽きた創造神は、新たな星を求めるために破壊神へ星を譲渡破壊を求めることがあるのだ。創造神が星を壊すことはできないために、起こりうる現実。珍しいことではない。
 しかし、今回は別だ。なぜなら、今目の前にいる創造神ユイティラーゼが所有する星は、類い稀な素晴らしい星だったからだ。ロストノヴィーは数ある創造神の星を見てきたが、これほどまでに強い煌めきを持つ星に出逢ったことは無かった。それに触れずとも分かった。彼の星には、永い時を掛けて積み重ねられた未知なる力が集約されている。
 この星を放棄する創造神がいるとは考えにくいのだ。

 疑念を抱きながらロストノヴィーは創造神の意図を探る。彼は本気で言っているのか?
「破壊してもいいが、後で泣くことになっても知らねーぞ」
「そうだね…その時は反省するよ」
 ユイティラーゼは先と変わらない笑顔のままだった。大口叩いたことを撤回することも無ければ、焦りの色もない。むしろ、今この場を楽しんでいるような節が見える。
 ―― 気に喰わねーな。
 ロストノヴィーの双剣を握る拳に力が入った。相手の挑発に乗るわけじゃない。ただ、彼がどんな意図を抱えているにせよ、相手から攻勢に出られるのは正直気に入らなかった。彼の出鼻を挫いたらどんなに痛快なことだろう。考えるだけで、嗜虐心にも似た闘志が湧きあがる。
「ならば遠慮なく、お前の星を頂いてやるよ」

 一言断わるが早く、ロストノヴィーは星に向けて双剣を振りかざした。ぐんっと前進すると同時に、星目掛けて双刃の刀身を思いきり振りおろす。双剣の刃は赤黒い光を纏い、禍々しい軌跡を残した。
 ロストノヴィーが手にする神羅双剣には、創造神の力を断罪する能力が秘められていた。どんな星だろうが神だろうが、彼が壊そうと思えば壊せないものは無い。
 ……はずだった。

『我らがいることをお忘れか? 創造神に仇名す破壊神よ!!』

 ガガッ!! バシィィーーン…!!

「何っ…!?」

『我は星の守護者オリジン・フォース。ユイティラーゼ神に創造されし最初の精霊 ―― 我が護りの追撃を知れっ!』

「…ちっ…!!」

 ロストノヴィーが攻撃を仕掛けた瞬間、星の真上で待機していた守護者は突如牙を向けた。オリジンはユイティラーゼが創り上げた星の守護者。星を護るために存在する力なのだ。
 星にあてがうはずの双剣は、星を護り続ける光の帯によって見事に弾かれていた。思いがけない事態に面食らったロストノヴィーは、帯から溢れ出る衝撃で後退せざるを得ない。
 体制を立て直す間も油断ならなかった。ロストノヴィーが身に起こった事態を把握しようとする中、オリジンが操っているだろう対為す帯は真っすぐに襲いかかってくる。星の守護者による執拗な攻撃に容赦というものは無かった。

 がっ、がっ、がっがが!!

 ロストノヴィーはオリジンの追撃を己が培ってきた戦闘センスで対応した。受け止めた帯は刃を返して弾き返し、あるいは壊撃を込めて叩き落とす。そのうちタイミングを見計らって守護者の帯を断ち切ることに成功した。しかし、それは一時的なものでしかないと知らされた。
 断たれた帯先端部分は空間の中で拡散して塵と化す。と同時に、残された帯本体には細かな光が宿り、途切れた箇所が再生し始めていたのだ。
 ―― なんて奴だっ…!!
 少しは怯みかけるロストノヴィーだが、早々に負けてなるものかと奮起して双剣を振るった。


 目の前で繰り広げられる我が守護者と破壊神の攻防。
 彼らをただ眺めているだけの創造神は、誰に知られることも無くくすりと笑っていた。
 この創造神が心の内に秘めるものは、未知への期待と可能性だった。
 ―― 彼が、理解してくれると良いのだけど。


 オリジンの防衛と反撃にはキリが無い。星を壊してやろうと奮闘したロストノヴィーであったが、刃を交わすにつれて星の守護者の存在意義を知った。星を狙えば狙うほど、守護者オリジンの攻勢が増すばかりなのだ。認めたくはないが……今の自分の力量では越えられない護りの壁が、ここに実在している。これ以上は、繰り返したところでどうにもならない。そう感じてしまった。
 やがてロストノヴィーは、オリジンの帯を弾き返して静かに双剣を下ろした。彼の表情に疲れの色は無い。あるのは、消化しきれない悔しさだけだった。それは、自然に言葉となって零れ落ちる。
「くそっ…降参……降参だ! これが、“星の守護者”ってわけかよ」
 星は相変わらずの輝きを放ったままロストノヴィーの眼の前で堂々と鎮座している。その傍に、創造神ユイティラーゼはいた。失わずに済んだ愛星を眺めて、ホッと安堵するように笑みを浮かべている。
「…身を挺して理解してくれた君に感謝するよ。オリジンもありがとう」
『ユイティラーゼ様にお仕えする身として、当然のことをしたまでです』
 オリジンは星と同調するように光を帯びて漂っていた。破壊神の降参宣言によって反撃は止めたものの、揺らめく帯は今なおロストノヴィーに警戒の姿勢を見せている。先の戦いまでは厳しい顔つきだったオリジンではあるが、ユイティラーゼから言葉を受けるとほんの少し嬉しそうな表情を浮かべていた。

「星の守護者については分かったさ。だが、これはどういうことなんだよ?」
 降参した身でありながら、自分が至らなかった理由を相手に尋ねることになろうとは……我ながら恥ずべき行為だとロストノヴィーは思った。だが、今回ばかりはプライドを捨てる必要がある、そうするまでの価値がある……不思議にも、そう考えた。
 彼は創造神が生み出す精霊 ―― フォースの存在自体は知っていた。彼らは星にフォースを創ることで命を与える。それが、星の創造なのだ。しかし、ユイティラーゼの場合は…。
「フォースが星を護るなんざ、聞いたことが無いぞ」
 ロストノヴィーの問いにユイティラーゼは嫌な顔を一つせずに応えた。
「精霊…つまりフォースとは、星を構成する命そのものであり、必要不可欠な存在だ」
「それは知っているさ。フォースがいないと星は命を持たないって話だろ。俺が聞きたいのはフォースがなぜ星の守護者になるか、だ」
『星が日々進化しているためだ。誕生したばかりの我らフォースはただの力であり意思はない。けれど、それは星の進化と共に変化が起こり、やがて我らの精神を形にする』
「星が、進化…?」
「言い換えれば星は成長しているということ。生きているものは、生きているままではないからね。進化を遂げて、自我に目覚めたフォースは必然的に星を護ろうとする……これが、星の守護者になる基盤。星を創るのは、神だけの力ではない」
 ユイティラーゼは深緑の瞳を細め、優しい眼差しで星を眺めていた。その姿はまさに星を見守る神だ。彼は最初から星を捨てようとは思ってはいない。己の星を心の底から愛している。
 ―― だったら、なぜ自分に挑発を投げた?
 その疑問は、すぐに解決への糸口を見つけた。
 ―― あれは挑発じゃなかった……? こいつは、精霊を信じたのか…?
 ロストノヴィーが訝しげにユイティラーゼを見ていると、彼と目が合った。創造神は何も言わずに笑みを返し、両腕に纏う羽衣をふわりと仰いだ。
 空間にあるはずのない風が緩やかに流れる、その瞬間…。

 ざざっ

「…!?」
 ロストノヴィーが瞳を瞬く間、前方には視界を覆い尽くす半透明な四角いスクリーンが忽然と現れていた。一つや二つでは無い。見渡してみると、それらは星とユイティラーゼを中心軸として360度を囲んでいる。大小様々なスクリーンは、数にして百以上はあると見て取れた。
「おい…何をする気だ!?」
 慌てたロストノヴィーは思わず双剣を差し向ける。それに反応したのは精霊オリジンだ。もしも攻撃しようものなら許さないと言うように、刃に見立てた帯を揺らめかせている。先の戦闘のこともあり狙われたら非常に厄介だ。そのためロストノヴィーは威嚇だけに留めたのだが、当のユイティラーゼはまるで気にする様子もなく、次々とスクリーンを構築させていた。

 創造神が何も言葉を返さないので、ロストノヴィーはただ黙って彼の動向を待つことしかできなかった。ユイティラーゼはひらすらに羽衣を宙へ仰いで空間に風を誘う。その姿は闇の中で麗しく咲き誇る、白い花のようだった。本当に、今までに類を見ない創造神だ。

 やがて、スクリーンには様々な映像が流れ始める。白いスクリーンに映し出されたのは色とりどりの風景だった。緑に満ちた大地、深く青い海、果てしなく広がる空、風に揺れる草木、森の中に住まう種族など……これらすべては、星の風景。
 ようやく創り上げたスクリーンに満足できたのか、ユイティラーゼは羽衣の舞いを止めた。今現在も止まることのない時間の中で生き続ける星の風景を眺めてから、彼はロストノヴィーに顔を向けた。
「これが私の星、守護者のいる星」
「へぇ…立派なもんだ」
「破壊することしか知らない君に、星の本当の価値がわかるかい?」
「星の、価値だと…? はっ、そんなもの…星なんて俺らの原動力でしかないだろ」
「……君は、星の世界を誕生から消滅まで通して見たことはある?」
「俺は“破壊神”だ。創造神じゃない」
「そう。だったら尚更だな…」
 ユイティラーゼの整った顔立ちが僅かに歪む。顎に指をあてがい何かを考えているようだ。その真の意図を探ろうとするロストノヴィーだったが、やはり無駄だった。そもそも破壊神と創造神は思想構想が異なる。意を相することなどあるはずもない。
 だからこそ、ユイティラーゼが紡ぐ言葉には驚かされることばかりなのだ。

「ねぇロストノヴィー、一度でいいから私と共に……星の行方を見届けてみないかい?」
「はぁ…?」

 彼の言ったことを瞬時に理解しかねたロストノヴィーはしばらく呆然としていた。その言葉が、いかに大きなきっかけだったのか、知るのはもっと先の話だ。

「何で俺がお前の星を」
「破壊神の“君”だからこそ、さ。それに、星の観賞がつまらないことはないと思う」
「ふざけるな、星の中身に興味は無い。だいたいそれは…星を奪えなかった俺への嫌みだろ!!」
「奪えなかっただって…?」
「何だよ…?」
「その剣は、“神を殺せる”」
「………」

 気付いていたことがあった。ロストノヴィーがユイティラーゼの星を壊せなかったのは、彼が力の大半を星と守護者に分散させているからだ。それは星の守護者オリジンの猛攻を受けて分かったことだった。
 となれば、創造神本人が持つ本来の力は今……。

 長い沈黙の後、ようやくロストノヴィーは言葉を紡ぐ。ギラギラ光る漆黒の瞳は、ユイティラーゼをただ睨んでいた。
「俺には、俺のやり方がある……神を殺すかどうかは、俺が決めることだ」
「……そうか」
 ユイティラーゼはほんの少し安心したように見えた。今までずっと、気丈になっていただけなのだろうか。彼は自分から己の危機を招いている、少なくともロストノヴィーはそう感じていた。そのことに、彼は気付いていないのか? もしくはそれはすべて承知したうえで…? ……ユイティラーゼの考えが、まったくもって理解できない。
 ロストノヴィーは疑問を抱きつつも言葉を続けた。
「それを決めるためというのなら……お前の星を見てやっても…いいけどな」
 分が悪そうに声を捨てると、ユイティラーゼは一度瞳を丸くして、それから女神のように穏やかな笑みを浮かべた。
「ふふ……ありがとう、ロストノヴィー。きっと無駄にはならないよ」
「…ふん、どうだか」



 これは、交わることの無かった一つの楔が、音を立てずに繋がった時間だった。
 創造神と破壊神。
 異なる二人の神が出逢うことで紡がれる、新しい時間が動き始める。



 ―― 今はわからなくても、いつかはわかることがある……。



 煌めく星はただ、きらきらと輝き続けた。