最後の守護者

 スクリーンに浮かぶ幾多の映像。順調に輝き続ける星を見守りながら、ホッと安堵する。けれど、不安が消えたわけではなかった。
 ―― いずれは…。
 ―― もしかしたら…。
 そんな言葉が頭に浮かんでくる。絶対にないとは言い切れない。それは、決して為されてはいけないことでもあった。
 だから、最後に『彼ら』を創りだすことにした。

「君達は最後の要…」
 本当は一人だけ創造することで十分だったかもしれない。しかし、最後の要というのは、その名の通り最後の手段ということ。「もしも」のため失敗は許されない、星にとって最も重要な役目を担うことになるのだ。それをたった一人で背負うには……やはり荷が重すぎる。
 ―― この子達は、耐えられるだろうか…。
 ふと思う不安を隠しながら同じ容姿である二人の頭を優しく撫でた。彼らはただ、真っ直ぐな瞳でこちらを見ている。
「月城の事は任せたよ」
 そう言うと二人は揃って「はい」と頷いた。そして、こちらの気持ちを読まれていたのか、あるいはただ純真に答えただけなのだろうか。彼らは今まで抱えていた不安を掻き消すように、はっきりと言葉を続けた。
「貴方の意志のもとに」
「僕達、月の兄弟は」
『星の守護者となります』



 月城の守護者であり、星の守護者でもある。
 双子の精霊が今ここに誕生した。



 世界と空間を繋ぐ唯一の道。
 それが【月城】
 最後の鍵を守護するのは双子の精霊。
 月の力を司りし者。



 月 ―― そこは常に暗い空が広がっていて、光の煌めきが無数に瞬く幻想的な世界。
 白い土に覆われた大地には、ここにしか群生しない草木や花が生い茂っている。月の地平線の彼方には守護者が守るべき星の光景が見えた。遠目には球体の地平、青々とした海、渦巻く白い雲、緑が広がる大地が認識できる。
 だが、月城の守護者の瞳には事細かく星の様子を伺うことが出来た。
 ある時、月城の門前で星の地平を眺めていたのは双子の片割れだった。白銀の髪にアクアマリンのような青い瞳、頭には獣耳がありお尻には狐のような尾が揺れている。
 月の精霊・双子の弟にあたるノエは愕然とした様子で立ち尽くしていた。
「これが本当に神の望んだ星?」
「………」
 ノエの傍には兄であるヨナがいた。容姿が同じなので傍目には区別が付かないだろう。彼は屈んだまま何も言わず、自分の指先に止まった虹色の蝶を観察していた。
「世界は昔も今も争い続けている。こんなこと絶対におかしい……神が望んだ星なんかじゃない!」
 いつまで経っても変わらない。繰り返される惨劇、終わらない戦い、消えない傷心。
 たとえ直接的には無関係だとしても、ノエには耐えられなかった。青い瞳に映るのはいつだって燃え上がる炎、崩壊された場所、失われゆく灯火なのだ。
 ノエの怒声に驚いた蝶が指先からふわりと飛び去ったので、ヨナはようやく弟へ顔を向けた。
「…ノエ、落ち着くんだ。今は苦しくてもいつかは」
「まだそんなことを言うつもり? ヨナは甘いんだ。だから世界は変わらない…この先もずっと」
「ずっと、なんて言葉はない。いずれ終焉はやって来る。それでも私達は在り続けなければならないんだよ」
「…どうして、どうして!? ヨナには聞こえないの? 星は今…泣いているのに……!」
「もう少し、もう少しだから。時は必ず訪れる…」



 そう、時が満ちるまで僕達は ――



 やがて時は来る。
 双子の精霊が護りし場所【月城】
 そこへ訪れし者は、何者なのか……。