始まりの場所
この星を創り上げた創造神という『神』の存在。
それは、人々が生まれたときから受け継ぐ潜在知識であり、最も敬すべき信仰教。
人々が思う神とは、星を意のままに操ることが出来るという。
神は星に慈悲を与え、ときには破滅さえも下す。
神とは気高き大いなる存在なのだと…。
「お前は相変わらずだな」
紺色のマントを身に纏う黒髪の青年がからかうように言った。
その視線の先には光り輝く不思議なスクリーンをじっと眺めているもう一人の青年。
白い服に紫の羽衣を纏う彼は、側にやってきた青年をちらりと見てから微笑んだ。
「そういう君もね」
淡い緑色の髪がふわりと揺れ、深緑の瞳が細められる。
それから再びスクリーンへ視線を戻した。
移り変わる映像。星に生まれた世界の景色は様々に色を変える。
永遠に繰り返されるのは生命の誕生、そして消滅。
「いつまでそうしているつもりだ?」
黒髪の青年は少々苛立っていた。
自分の求めるものが目の前にあるのに、まったく手が出せないからだ。輝く星に心がずっと疼いたままだった。もう一人の青年は自分の事を何も知らないわけじゃない。だからこそ、早く決着を付けたいと詰め寄る。
けれどその青年は臆することなく答えた。
「この星が存在し続ける限り、私はいつまでもここにいる」
創造神は星に命を与え、見守る者。
破壊神は星を見届け、消滅させる者。
対なる存在はいつの時代にも、永久に現る。
人々は何も知らないまま神に祈り続ける。
――どうか私達に祝福を。
――どうか私達に繁栄を。
――どうか私達に勝利を。
人々は何も気付かないまま神を信じ続ける。
――どうか彼らに冥府を。
――どうか彼らに衰退を。
――どうか彼らに敗北を。
本当は誰が知っていようか。
神の存在は、神だけが知っているということを。
「お前が譲らないと言うのなら、俺は無理にでも奪う」
黒髪の青年は両手に双剣を握る。しかしもう一人の青年は何一つ動じない。
静かに振り返り、身に付けている羽衣を仰ぐ。それから小さく微笑みながら言った。
「君は考えたことがあるかい?」
「何を?」
「私達は神なんだ」
「それがどうした」
「神とはいかなる存在なのか、君は考えたことがあるかい?」
問いかけに黒髪の青年は眉を顰めた。
人々が思う神。
それは星を意のままに操ることが出来る。
神は星に慈悲を与え、ときには破滅さえも下す。
神とは気高き大いなる存在。
彼は星に命を与えて見守り、自分は星を見届け消滅させる。
「お前は星を導く者、俺は星を終わらせる者…いうなれば星を『支配する者』」
「そう、私達は星を『支配』する。自らの『意志』で」
「それが何だという?」
「私達の『意志』、すべて決められていたものだとしたら…」
「………」
「世界は人々に、人々は星に、星は神に支配される。では神である私達は誰に支配されるのだろう?」
対峙する二人の間に輝くもの。
星は様々に光を変え、時代を歩み始める。
人々はまだ何も知らない。
だが、神もまた、何も知らないのかもしれない。
ここからすべてが始まり、いずれ終焉を迎えるということ。
いつか誰かがこう呼んでいた。
無の空間…≪フィールド・ゼロ≫
星は、輝いていた。