Story - Thing Of Desire -

Thing Of Desire

―― こんな生活を望んでいたはずじゃなかった。
それでは何を望んでいたのか。
―― 手に入れたかったのは名誉?栄光?
違う、そんな価値観の高いものじゃない。
もっと、もっと自分の身近にあるもの。
本当はすぐ傍にあったのだ。
けれど。
どんなに手を伸ばしても手に入れようとしても、それは遠く届かない。
自分の目の前に在るのに。

「魔王様…エルガナス様」
「何だ」
「ご覧ください。この子が…ガイアスが貴方のことを呼んでいるようなのです」
「…子どもはお前に任せるといった。他に用がないのなら戻れ」
「す、すみません…」

―― ああ…また遠くへ行ってしまう…。
手に入れたかったのは貴方の心。
幾度と無く彼を振り返らせようと努力したけれど無駄だった。
近くにいるはずの貴方はどんどん遠くへ行ってしまう。
自分にはもう貴方の心を留める術はない。
―― 寂しい…ああ…どうしてこんなに寂しいのだろうか。
抱きかかえていた赤子は自分と同調するように泣き声をあげた。
そして背を向ける貴方に呼ぶように小さな手を伸ばす。
可愛い我が子の純真無垢な想い。
それでも貴方は決して振り向かない。

「大丈夫よ、泣かないで…さぁママと一緒にお散歩しましょう」

結局、自分は思い上がっていただけだった。
王妃に選ばれたあの日。
富と栄誉、絶対的な権力、何もかも約束された幸せ。
そんな生活が待っているのだと思っていた。
けれど、それは自分の夢の世界でしかなかった。
今になってようやく貴方の言葉を理解したのだ。
『私はお前を愛することは出来ない』
その言葉通り。
貴方は一度も私を愛してくれたことはなかった。
そして、これからも。
貴方が私を愛してくれることはないのだ。



end