紅と蒼の翼 … [時の輪廻]
夜明けとともに昇り始めた朝陽。
暖かい日差しをその身に浴びて、彼はゆっくりと目覚めた。
天駆けるのは燃える炎のように美しい紅き翼。
それは火の遣いと称されし民・クリムゾン。
彼らは翼を仰いで今日も陽の光の下、果てしない大空を舞う。
それはまるで鳥のように、天使のように。
クリムゾンは日の出とともに行動し、日没とともに眠る。
故に彼らは知らない。
世界に夜があることを。
夜空に昇る月があることを。
そして、深い奥底に眠っている対なる種族の存在も。
夕暮れとともに浮かび上がった夕月。
蒼白い月光をその身に浴びて、彼女はゆっくりと目覚めた。
海泳ぐのは流れる水のように美しい蒼き翼。
それは水の遣いと称されし民・アクア。
彼らは翼を仰いで今日も月の光の下、果てしない海を舞う。
それはまるで魚のように、竜のように。
アクアは日暮れとともに行動し、朝焼けとともに眠る。
故に彼らは知らない。
世界に昼があることを。
大空に昇る太陽があることを。
そして、遠い彼方に眠っている対なる種族の存在も。
昇る朝陽、沈む月。
駆けるのは紅い翼、眠るのは蒼い翼。
浮かぶ夕月、消える太陽。
泳ぐのは蒼い翼、眠るのは紅い翼。
何度も繰り返される1日の訪れ、昼と夜。
陽の下で生きるクリムゾン。
月の下で生きるアクア。
彼らはともにすれ違い、決して交わらない。
二つの種族は永遠に同じ世界で異なる時間を支配する。
昔から今まで、ずっとそうだった。
そしてそれはこれからも続く。
彼らの未来はきっと変わらないだろう。
彼ら自身がこの世界の矛盾に気付くまで。
- END -
掲載時期不明。短編というよりは、詩をイメージして書いたもの。