古代竜血種の誕生 - story of dragon blood -
これはむかしむかしの物語。
始まりは傷ついた竜と一人の人間との出逢いから…。
竜谷に棲んでいる竜は決してそこから外界へ出ることはなかった。
昔もこの先もずっと、竜という種族が決めた一つの掟。
しかし。
ある時、好奇心旺盛な一頭の竜は外界に興味を持ち、大空を駆けた。
辿り着いた大地は人間という種族が住む、色とりどりの世界。
見たこともない光景に心を奪われた竜は、気分のままに大地へ行くようになった。
最初は遠くから眺める程度、視力が良いので無闇に近付く必要はない。
けれど、静かに眺めているうちに竜は人間に興味を抱き始める。
彼らをもっと近くで見てみたいという気持ちから、竜は今まで隠していた姿を人前で現した。
竜の存在を知らなかった人間は、見たことのない姿に疑念と恐怖を覚える。
そこから出された答は悪しき存在。
つまり魔物だと思い込み、竜を退治しようとした。
悪気のない竜は敵視される理由がわからず、無数の攻撃を受けて大地から追いやられてしまう。
人間の世界は竜の存在を拒んでいる。
掟の意味をようやく悟った竜は故郷へ帰ることにした。
ところが、思っていた以上に受けた傷が重く、竜谷に戻ることが出来なかった。
ボロボロになった翼では満足に飛ぶことも出来ず、拒まれた大地に倒れてしまったのだ。
そんな竜のもとに、一人の人間がやって来た。
竜を魔物だと思い込み、退治するためにここまで追いかけてきたのか。
理由は何であれ、今の竜には話すことも動くことも出来ない。
ここで命が尽きるのだろうと、そう思っていた。
かすかな視力に映った人間は心底困った表情で何かを語り掛けていた。
なぜそんな顔をしていたのだろうか。
竜の意識は疑問を抱いたまま限界を迎え、静かに瞳を伏せた。
ぼんやりと明るい光が見えた。
竜は今までのことを思い出しながら、ここが死者の世界なのだろうと思った。
けれど、よく周りを見渡すとそれは違っていた。
見覚えのある景色は自分が行き倒れた大地。
まだ生きているのだとわかった。
その上、受けたはずの傷がほとんど治りかけていた。
この状態であれば再び竜谷に戻ることが出来るだろう。
竜がもう一度飛び立とうと体を起こしたとき、自分の傍で一人の人間が寄り添っていることに気がついた。
それは竜が意識を失い欠けていたときにやって来た人間。
自分が体を起こすのと同時にその人間も目を覚まし、初めて向き合うことになった。
その人間はまだ若い青年で、竜を見上げながら言う。
「元気になって良かった」と。
優しく微笑む青年を見て、竜は何だか不思議な気持ちでいっぱいだった。
人間が敵視した竜を助ける人間。
攻撃を受けたとき、人間が嫌いになりそうだった想いが薄れていくような感覚を覚える。
竜は再び人間に興味を抱き、彼らの事をもっと知りたいと思った。
青年は竜にとても親切で友好的な人間だった。
お陰で知らなかった人間の世界を少しは理解できたような気がした。
時は流れ、いつしか種族の差を思い知るときが訪れる。
竜を助けた青年は随分前から病に侵されていた。
それは人間の持ちうる知識では到底解決できない不治の病。
治る可能性のない病に青年の体は弱り、どんどん蝕まれ、命が保つのも時間の問題だった。
病というものにほとんど干渉がなく、何万年もの寿命を持つ竜には理解しがたい事だった。
日に日に弱体する青年を目の前にして、竜は彼を助けたいと望んだ。
今度は自分が助ける番なのだ。
恩返しをするために、竜は青年のため、力を使う。
それは命の尽き欠けている青年に自分の寿命を共存させるというものだった。
そうすることで青年の不治の病を消滅させることが出来る。
しかし、青年はそれを頑なに拒んだ。
自分はあくまで人間であり、病になることや命が尽きるのは人間であるからこそなのだと言う。
多大な力を持つ者が勝手にそれを改変していいことではない。
もちろん、竜自身にもわかっていた。
けれど今、自分が力を使おうとするのは己の力を誇示するためではない。
心の底から青年を助けたい、そう強く望んだからだ。
自分も命尽き欠けたところを助けられ、長い寿命を失わずに生きている。
今ある竜の存在は全て、青年のお陰なのだ。
だからこそ竜は自分の想いを真剣に説き、青年に伝えた。
しばらく悩んでいた青年は、竜の本心を聞くことでようやくそれを受け入れることにした。
竜と人間、互いの信頼の上で成り立つ誓約が交わされた。
これが「古代竜血種」誕生の瞬間だった。
- END -
2007年掲載。創作設定資料【残る史歴】の「竜」に当たる部分の物語でした。
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