Other Side Story 兄と親友

約束 ~対なる紅と蒼の炎

 彼にいえることは、自分とは反対だということ。
 黒髪に紫の瞳。どちらも闇に添う色なのに、聡明な顔立ちは凛として強い光に満ちていた。

 彼にいえることは、闇を持ちながら光を使役していること。
 例え絶望の淵に立たされたとしても諦めない強さを持っているのだろう。
 自分は……今すぐ死んでもいいと思っているのに。


    *


 出会いは偶然か、必然か?
 どちらにせよ双方予期せぬ事態だったのは確かだった。

 黒髪の青年は不気味に鼓動する紅い剣を。
 蒼髪の少年は左に細身の剣、右にダガーを携えて。
 交わる刃と共に互いの視線がかち合う。
 紫の瞳は光を宿し、蒼の瞳は闇を宿していた。

 彼に出逢った少年は戦いをやり過ごすつもりだった。自分がすべきことは単なる時間稼ぎ。それが主から下された絶対命令だ。
 少年は闇に隠れた一団を護るための盾であり、一時の囮に過ぎない存在だった。

 少年に対峙する青年は闇の一団を探っていた。彼は卓越した戦術を備える有能な魔剣士であり、剣術と魔法を巧みに使いこなしながら少年を追い詰めた。
 特殊任務が宛がわれていることは、少年の属する一団を付け狙っていることから明らかだ。

 何度もかち合う金属音。
 少年は子供さながらの身軽さで青年の剣をかわし、隙を突く。
 青年は向けられた刃を弾いて、紅い剣を唸らせた。
 両者は一歩も譲ろうとはしない。
 少年は己に課せられた務めを頑なに固持し、青年もまた小さな刺客を逃すつもりはなかった。

 かち かち かち

 どこかでカウントされる時の鼓動。

 がきんっ、と剣が交差した束の間に、少年の身体がふわりと空に飛んだ。はっとなって見上げると、渾身の力を振りかざした刃と殺気が青年に襲いかかる。

 かち かち かち

 時の鼓動は進む。あと少し、もう少し……。
 夜は一団の隠れ家を創り上げる。闇は深く沈んでいた。

 少年の剣を受けた青年は不覚にもひるんでしまった。表情は歪む。
 相手はまだ子供だというのに…!
 自分に引けを取らない戦力を秘めていることへ驚くとともに、怒りを感じてならなかった。
 だからこそ、逃がしてはならない。いや…逃がさない!

 かち かち かち

 時は終わりを告げようとしていた。カウントはやがてゼロを示す。
 ……そろそろか。

 かち かち ・・・・・・

 何がきっかけだったのか? 戦意をむき出した少年は急に身を引き始めた。
 青年の頭の中で警鐘が鳴り響く。少年は今、戦いを放棄しようとしている…?
 ── まさか、組織の囮役……!!
 そうであれば尚更、ここで逃がすわけにはいかない。



 青年は魔剣士。
 魔剣士とは、世界でも指で数えるほどしか存在しない優れた者を指す。
 青年は、確かな有能者であることに違いはなかった。



 それはほんの一瞬、感覚でしか捉えられない“違和感”が鍵となった。
 常人ならば見過ごすであろう、ごく小さな“揺らぎ”、そして“迷い”、“戸惑い”。

 青年は少年を取り囲むようにして魔法を放った。
 瞬時に燃え上がる炎は、対象に死角を与え方向性を奪う。

 少年は成す術なく、炎の渦から逃れることができず、地に伏せた。



 これが、対なる紅と蒼の炎の ── 約束の出会い。



 気を失う少年の元で、青年は一つの誓いを立てていた。
 『自分が必ず、この子を変えてみせる』と。

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