Extra Story

魔女と暗黒騎士 二版

 人々から魔女と呼ばれる魔導士がいた。
 紫黒の髪に、紫の瞳。黒衣に身を包む魔女は、とある計画を実行しようとしていた。
 しかしその計画は禁じられていることだった。なぜなら、計画を実行することで世界中に厄災が降ると云われているからだ。ようやく長年の恐慌から解き放たれたというのに、魔女は世界に恐慌の再来を求めていた。

 噂は瞬く間に広がった。
『一人の魔女が、暗黒騎士を復活させようとしている』

 危機的状況を察知した国は魔女に賞金を懸けた。標的は一人。しかも女だというのに、懸けられた金額はかつてないほどの高額だった。誰もが割りのいい賞金首だと目を付け、一獲千金の夢を手に入れようと考えていただろう。
 だが、期待は裏切られる。
 華奢な見た目とは裏腹に、魔女はとんでもない力を秘めていた。彼女はその呼び名の通り、魔女だったのだ。
 魔女に近づける者は誰一人としていなかった。魔女は魔導士であり、主体となる武器は魔法である。基本的に魔導士というのは接近戦が苦手だ。賞金首ハンター達は彼女の弱点を突くことで、賞金を我が物にしようと考えていた。
 しかし、魔女には通用しなかった。接近戦など関係ない。彼女はそれすらも簡単に覆してみせる。彼女は単なる女の魔導士ではない。
 魔女は、世界一を馳せる魔法の天才だった。

 いかなる賞金首ハンターも魔女を捕える事はおろか、触れることすら出来ない。業を煮やした国はとうとう最終手段に踏み切った。
 いずれ魔女が訪れる、暗黒騎士が封じられた場所での待ち伏せだった。

 予想通り、魔女は現れた。
 紫黒の髪を揺らし、紫の瞳はギラギラと閃かせ、迷うことなく暗黒騎士が眠る墓標を目指している。
 魔女が墓標の数メートル手前まで来たところで、国の兵士達は一斉に取り囲んだ。
「魔女よ、貴様の悪行もここまでだ!」
 剣を差し向けながら、軍の隊長が宣告する。魔女はゆっくりと辺りを見回した。どこを見ても見慣れた鎧ばかり。
 虚ろな表情を浮かべていた魔女は微かに笑った。兵士達は思わず息を飲む。
「私を止めようなど考えるな、誰にも邪魔はさせない」
「どうやっても貴様は暗黒騎士を復活させようというのか?世界に厄災をもたらすつもりなのか!?」
「騎士は目覚める。その後何が起ころうと私の知ったことではない」
「ならば、ここで我々が貴様の息の根を止める!皆の者!魔女を殺せ!!」
「無駄な事を」
 隊長の合図に兵士達は攻撃を開始した。何百という数の彼らは魔女に突撃し、剣や槍、あるいは弓や魔法を解き放つ。
 魔女に逃げ道はない。しかし、彼らは愕然とさせられる。
「うあああぁぁぁぁあああああっっっっ!!」
 各地で絶叫が飛び交い、身体は宙に舞う。激しい閃光が唸りをあげ、魔女の周りにいた兵士達を吹き飛ばしていた。
 それだけではない。シャワーのように降っていた弓は見えない壁によって反射される。矛先は発射元である兵士達に向けられ、防ぐ手立てのない彼らはあっけなく倒れた。
 相手はたった一人だというのに、多勢の兵士達だけが次々と命を絶たれて行く。あまりにも信じられない光景に、隊長はぼやいた。
「なんてことだ……あいつは魔女どころではない…!」
 まだ戦い始めて少ししか経過していない。けれど、軍隊はすでに三分の二にまで戦力を落とされていた。この調子では全滅してしまうかもしれない。
 そのとき、魔女はふと動きを止めた。同調するかのように兵士達も動きを止める。
 魔女の目線の先には、一人の青年がいた。いつの間に現れたのだろうか。
 銀色の髪に蒼い瞳を持つその青年は、周りの様子なんて構うことなく静かに魔女の元へと足を運んだ。
「………」
 魔女は無言のまま、青年を睨む。青年は思いつめるような表情で口を開いた。
「ロア、本当に彼を目覚めさせるつもりなのか?」
「……そうだ。それが私の望みだ」
 魔女 ── ロアの決意は変わらない。当然のように応えると、青年はさらに続けた。
「彼が復活すれば、世界は闇に呑まれてしまう。そうなったら多くの人々が苦しむことになる。それでも、君は……彼に会いたいというのか?」
「そうだ」
 重圧が込められた言葉に、ロアは即答だった。もう何を言っても彼女の心情を変えることはできない。そう固く受け止めた青年は、左手をロアに翳した。
「どうしても彼を目覚めさせるというのなら、僕は君を止めなければならない」
「!?」
 刹那の出来事だった。ロアは青年によって作られた魔法の監獄に閉じ込められてしまう。脱出を試みるが、動いた瞬間に膨大なエネルギーがロアの身体に負荷を掛けた。
「う…ぐぅ……っ…!!…ユナ……貴様…!」
「ごめんロア……でも、彼を目覚めさせることはできないんだ」
「ぐあ……ああっ…ああああぁぁあああぁぁぁぁあああああっっっっ!!!!!」
 凄まじい衝撃が全身を駆け巡る。ロアは言葉にならない声を上げながら、監獄の中で暴れた。だが、いくら抵抗しようとも監獄はビクともしない。
 青年 ── ユナが持つ魔力は特殊なものだった。竜と誓約を交わした彼の魔力は属性干渉を受けず、絶対的な効力を誇る。どんなに高度な魔法技術を持ってしても、彼の魔法を打ち破ることは皆無だ。ロアも例外ではない。
 彼女が監獄から出られないことを確認したユナは軍の隊長の元へ向かった。
「あとは……お任せします」
「……わかった。手助け頂いたことに感謝する」
 二人は会釈を交わす。彼の役目は終わったはずだった。

「……わ…たしは………」
 ふと監獄から零れた声。その場を去ろうとしていたユナは足を止め、振り返った。
「…あき……らめる、もの………か……わた…し…は……」
 掠れる声に監獄が震える。一瞬、光の網で構成された表面にバチバチッと電気が流れた。
「わたしは……私の命に…代えても………!!」
 ロアの意図を知ったユナはすぐに引き返した。監獄の周りにはロアに止めを刺そうという兵士達が集まっている。ユナは彼らに向かって警告を発した。
「皆!そこから離れろっ!危険だ!!」
 必死に声を上げるが、それは間に合わなかった。
「騎士よ……どうか目覚めて………もう一度この世界に戻ってきてくれ…」
 願いを掛けたロアは、自分の中に眠っている全魔力を解放させた。さまざまな色を織りなす魔力は帯のように広がって、近くにいた兵士達を貫き、即死させた。監獄内は直視できないほど眩い光に包まれる。
 周りを渦巻く魔力は凄まじい殺気を放ち、近寄るものを無慈悲に攻撃するようだった。うかつに近づけないユナと残った兵士達は、ただ事が落ち着くのを待つしかない。
 やがて光は収まる。だが同時に、あってはならないことが起ころうとしていた。
「騎士の墓標が……!?」
 その墓標は蒼い光を瞬かせ、不思議なオーラを発生させていた。誰もが、その意味を確信してしまう。
「暗黒騎士が…目覚める……!!」
 急に溢れた蒼い光の中に、彼はいた。

 蒼い髪に蒼い瞳を光らせて、暗黒騎士は立っていた。虚ろな表情で黒衣を纏った身体はゆらりと歩き出す。兵士達は反射的に武器を構え、警戒した。
 騎士はぼんやりと視線を落とした。その先にあるのは、血に塗れた魔女 ── ロア。
「また…無茶をしたのか……」
 そう呟いて、騎士はロアを抱き上げる。魔力を使い果たしたロアだったが、意識はまだ残っていた。
「あ…よかっ……た………かえってきて、くれた……」
「本当にお前は……でも、起こしてくれてありがとうな」
 騎士は優しく微笑むとロアに唇を重ねた。騎士が持つ蒼い魔力が彼女の中に入り込む。それはロアの傷を治し、魔力を増幅させ、すべてが万全になるまでに回復された。
「セディト……ずっと、逢いたかった…」
「ああ、俺もだよ……ロア」
 騎士 ── セディトはロアを強く抱き締め、もう一度深い口づけを交わした。

 誰もが言葉を失った。
 暗黒騎士の復活、その事実だけが目の前で愕然と繰り広げられている。これから先、想像もつかないような厄災が起こってしまうのだろう。
 しかし、諦めるのは早かった。目覚めたばかりの騎士は魔女に気を取られている。今なら、まだ間に合うかもしれない。
 使命感と勇気に駆られた兵士達は一斉に武器を振り上げた。
「駄目だっ!無闇に彼に近づいては……!!」
 彼らを止めようとするユナだが、その声は届かない。
 魔女を抱く騎士の背中に無数の刃が襲いかかる。完全ではないうちに仕留めてしまえば、世界の平和は守られるのだ。誰もが望み、そう願った。
 だが……。
「……邪魔を、するな」
 振り返った蒼い瞳が閃く。その瞬間、兵士達の身体は無数に斬り裂かれ、言葉を絶したまま冷たい闇に沈んだ。
 目覚めてしまった以上、もう止める術がないことを彼らは理解していなかった。
 数多くの兵士が倒れる丘の上。残された者はそれでも剣を振るうか、はたまた命令を無視して逃げ出すかに分かれた。騎士は向かってくる者に容赦はしない。魔女を抱き締めたまま視線だけを泳がせ、蒼い瞳は敵を一掃した。
 最後に残っていたのは、ユナだけだった。

 何も言葉にすることが出来ないユナは、もう手遅れになっていることを知っていた。呆然と立ち尽くしていると、セディトは視線を向ける。
「悪いけど……お前も死んでもらうよ、ユナ」
「………」
「本当は見逃してやりたいさ」
「………」
「でもお前は……ロアを見殺しにしようとした。それだけは絶対に許すことはできない」
 セディトは鋭い瞳で睨みを利かせると、見せつけるかのようにロアの唇を奪う。ロアはされるがままに酔い痴れていた。紫の瞳には、目の前の蒼い瞳しか映らない。魔女ロアが望むのは暗黒騎士セディトだけで、彼もまた同じだった。
「セディト……僕は…」
「もし俺とロアの関係に耐えられるなら、お前を生かしてもいいけど」
「………」
 顔を上げたセディトに言葉を被され、ユナは押し黙る。哀しげな表情とは裏腹に、握られた拳は震えていた。それを知りながらセディトはロアに頬を寄せて、何度も彼女を愛撫する。ロアは陶酔するように身を任せていた。
 しばらく沈黙が続いたが、やがてユナはぼそりと呟く。
「…………てくれ」
「………」
「……僕を、殺してくれ」
「そう……」
 掠れた声に頷くと、セディトはロアに小さく囁いてから身を離した。それから左手に魔力を集中させる。
「風星よ」
 セディトの呼びかけに応じて、銀色の剣が形となる。フォルムは一般的な細身の長剣、彼が愛用する風星剣だ。
「ユナ、お前だけは俺の手で葬ってやるよ」
 そう言って、セディトは一気に間を詰める。ユナの胸に銀閃が当てられたのは、刹那の出来事だった。
「何か言い残すことは……?」
「聞きたいことなら、ある」
「答えられる範囲なら聞いてやるよ」
「君は……セディトは、この先どうするつもりだ?」
「……何もしないさ。俺はロアと一緒にいられればそれでいい。もちろん、俺達を邪魔する奴は殺すけどな」
「世界に厄災をもたらす暗黒騎士、それが君……」
「なるほどね、俺が世界を崩壊させると思っているのか。けど、それはもともと奴らが悪いんだぜ?奴らは俺の怒りを買ったんだ」
「怒りを……買った…?」
「お前は何も知らないんだな。だったら最後に教えてやるよ、奴らが俺に何をしたのか、なぜ俺が暗黒騎士なんて呼ばれるのか……」
 セディトは楽しそうな笑みを浮かべて、話の真相を明かし始めた。
「発端は今から6年前だ。俺とロアは愛し合い、幸せな日々を過ごしていた。俺は天才魔剣士、ロアは天才魔導士、二人が組めばまさに敵無しとも言われていた。そんな俺達の有能な力を求めて、あらゆるところから声が掛った。どうか我々の国で重要な力となってくれないか、とね。でも……断った。俺はいつもロアの傍に居たいし、ロアも俺を必要としてくれたからだ。それにもう、戦いたくなかった」
「……まさか…」
 初めて耳にする話。けれどユナには自然と想像が付いた。セディトはくすりと笑って、言葉を続けた。
「多分、ユナが予想している通りだ。俺達が誘いを断る中、ある国はそれを不服とし、どんな手を使っても引き入れようと馬鹿な事を始めた…………奴ら、魔力を無効化させて非力になったロアを連れ去ったのさ」
「……じゃあ、それで君は…」
「俺が動くには十分な理由だ。ロアに手を出す奴に俺が黙ってられると思うか?そんなことはありえない、自分の命よりも大切なものなんだ。だから、国を落としてやったよ……二度と俺達に手を出せないようにな」
「コルトバの陥落……そういう、ことだったのか……」
 ユナは頭が痛くなった。なんてことなのだろう。その国は彼らの意思を無視し、強引な手で彼らを獲ようとしたのだ。そして、それは相手が悪かった。セディトは天才と名の付く魔剣士。その所以は、たった一人で一個軍隊を全滅させたことにある。セディトの巧みな計略と洗練された技術は類に見ない、貴重な財源として扱われていた。
 そんな彼が一国を落とす可能性は十分あり得る話で、先を読めなかった国が愚かだった。
「俺が暗黒騎士と呼ばれたのは、今と同じような黒衣を纏っていたからだろうな。でも、問題はその後だ。陥落の事実を知った他国が俺を危険因子だと認識し、執拗に暗殺を企み始めた。危険因子としての意味も、世界に厄災をもたらすと馬鹿みたいに拡張されてね」
 セディトは歯を噛み締めると、異様なほど冷たい視線でユナの胸に当てた剣を僅かに動かした。研ぎ澄まされた刃は簡単に衣の表面を裂いて、間から彼の白い肌が露出する。セディトはそっと剣を這わせながら、軽くなぞった。
 小さな痛みが響いて、ユナの表情は歪む。
「…っ……」
 セディトは斜めに赤い線を描くと、再び話を続けた。
「日夜頻繁する暗殺行為。正直俺はうんざりしていた。奴らを返り討ちにするのは容易だけど、やっぱり毎日となれば疲れる。だから俺は、しばらく眠ることにした」
 そう言うとセディトは一時的に剣を下げ、後ろで立っているロアを呼んだ。
「……?」
 不思議そうな表情で傍にやってくるロアをセディトは右手で抱き寄せる。それから剣の切っ先をユナの身体に突き付けた。
「最初、ロアは嫌がった。お前が眠るなら自分も一緒にとせがんだ。でもそれは出来なかった。起こす者がいなくなるからだ。離れがたかったけれど仕方がない、そう割り切って俺は自分自身を封じ、ロアには時が来るまで待っててもらうことにした……」
「それが、今日だったのか」
「そういうこと……さて、話は終わりだ」
 セディトはロアを抱いたまま、剣先をユナの左胸に当てる。その様子を黙って見ていたロアは小さく尋ねた。
「セディト……ユナを、殺すのか……?」
「お前が嫌なら止めてもいいよ。嫌、なのか?」
「それは……わからない…………でも…あまり血は、見たくないから」
 ロアは少し辛そうな表情でセディトが付けたユナの傷を眺め、すぐに視線をそらす。セディトの胸の中に顔を埋めると、ぎゅっと身体にしがみついた。
 セディトはロアの頭を撫で、ユナに剣を向けたまま、静かに言葉を紡ぐ。
「……良かったなユナ。ロアに免じて今回は殺さないでおくよ」
「セディト……」
「でも、二度と目の前に現れないでくれ。俺は知ってるんだ、お前がロアに好意を抱いてるってことを」
「!!それは……」
「別に、個人の感情にとやかく言うつもりはない。ロアが好きなら好きでいていいさ。だが覚えておいてくれ。ロアは俺のものだ、誰にも渡さない……今度俺の前に現れたら、ロアを奪いに来たとみてお前を殺す」
「………」
「わかったなら、もう行ってくれ。俺の気が変わらないうちに」
 言葉を返せないままユナは頷く。セディトとロアを前にしながらゆっくりと後退し、転移の魔法で姿を消した。
 それを見届けたセディトは持っていた剣を空気に拡散させた。もともと魔力を具現化して使っているものなので実態はなかった。空いた手はロアの腰に回され、身体を強く密着させる。そのまま口づけを交わしてからセディトは言った。
「ロア、二人が穏やかに暮らせる場所に行こう」
「うん…」
 こくりと頷いたロアは真っ直ぐにセディトを見つめる。それを受けながらセディトは転移の魔法を口にした。足もとに現れた魔方陣は蒼い光で二人を包み、彼の地へと運ぶ。

 丘の上には、無数の死体と赤い血だけが残されていた。



 そして、その後 ──



 暗黒騎士 ── セディトの周りには、多数の賞金首ハンターがいた。そのほとんどは既に事切れているようだった。
「馬鹿な奴ら……」
 ぼそりと呟いて、冷たい視線を投げる。隙を探っているのか、未だに自分の首を狙う残されたハンターたちは警戒しながら随分と距離を置いていた。
 だが、その程度の間合いでは彼には通用しない。
「うざい……消えろ」
 蒼い瞳が閃くと、ハンターの数名が瞬時にして斬り裂かれた。見えない風の刃に為すすべがない。運良く攻撃を免れた者は、ひたすら恐怖に支配される。狂気に駆られて挑んでくる者がいれば、震える足で逃げだす者もいた。
 今更道を分かれたところで、結果は同じだというのに。

「セディト、大丈夫か?」
 戦いが終わり、側に寄って来た魔女 ── ロアは不安そうな表情を浮かべていた。殺伐とした気配を纏いながらもセディトは、やんわりと笑みを零す。
「大丈夫。でも、少し疲れた……」
 そう言うと、セディトは力を失くしたようにロアへ寄りかかる。その身体を支えながら、ロアは小さな溜め息を付いた。
「無理をするからだ」
「わかってるさ。……もう、ここには居られないな」
「そう、だな……」
 ロアは俯き、セディトは瞳を細めて遠くを眺めた。
 辺りには息のないハンターが大勢倒れており、赤黒い鮮血が飛散していた。ここに来た当初は、美しい景色が見渡せる二人の安らぎの場所だったのに、今ではすっかり見違える悲惨な場所へ変貌してしまっている。
 二人で過ごせた時間は約一月ほど、短いものだ。
「……すまない、セディト」
「何でお前が謝る?」
 急にロアが言ったので、セディトは怪訝な表情になる。ロアは自責するように言葉を続ける。
「私が捕まっていなければ、こんなことにはならなかった。セディトがあの国を落とす必要もなかった……全部、私のせいだ」
「馬鹿なことを言うな、ロアのせいじゃないよ。……悪いのは、奴らの方だ」
「でも、もとはといえば、私がもっと注意していれば……」
「俺達はきちんと意思を示していた。素直に理解しなかった方がおかしいんだよ。ロア、自分を責めるな。俺は別に後悔なんてしていない……俺はお前が側にいてくれれば、それだけでいいんだ」
「セディト……」
「心配するな、大丈夫だよ。俺がお前を守る……愛しているよ、ロア」
「うん…ありがとう」



 暗黒騎士復活の噂は各地に広まっていた。魔女討伐の賞金と、そこへ新たに加えられた暗黒騎士討伐への賞金は信じられない額へ上限が解放されていた。見たことのない金額の桁数に、誰もが息を呑んだことだろう。
 当然のことながら、それを聞きつけた数多の賞金首ハンターはすぐに行動を開始し、彼らの居場所を捜し当てた。そして、連日終夜襲撃を行ったという。

 だが、誰一人として成功したものはいなかった。





 END ── 二版(終盤文章追記修正) 2023/5/9up ──

二版あとがき 2023/5/9

「魔女と暗黒騎士」二版をお読みいただきありがとうございます。二版掲載にあたり、あとがきを残しておきます。
この二版は、初版の最後2行までは内容の変更はありません。最後2行より追記修正を加えたものとなっています。

初版には、少しだけ続きが書いてありました。当時はどうキリ良くまとめていいか分からなかったため、途中カットして終わらせていたのですが、せっかく書き残しているなら追記してみようと思い至ったため、二版として出すことにしました。
出来るだけ当時の文章は変えたくなかったので、続きの流れに少しだけ手を加えてまとめています。
追記があって良かったのか、無い方がいいのか、読み手次第になる部分だと思いますが、自分としてはどちらも好きな物語です。Endearのアナザー版ということで、楽しんでいただければ幸いです。

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